結婚式の挨拶でよく耳にする表現だ(イラスト/桔川伸)
結婚式の挨拶でよく耳にする表現だ(イラスト/桔川伸)

 ビジネスや祝いの場などでは、ふだん使わないかしこまった言葉を用いることがあります。それらは、漢字の意味をたどっていくと、なぜそのような言葉になったのか理解できるでしょう。今回は、そんな漢字うんちくを紹介します。

*   *   *
1.失念(しつねん)
~ 「念」には心中に深く思う意味がある

 「念」の「今」の部分はふたを表します。「心」と合わせて、ふたをして中のものを閉じ込めるように、心中に深く思う意味があります。そのため、「失念」は心の奥深くで思っていたことをうっかり忘れるという意味であり、「本当は覚えていた」ということをふくませて伝えることができるのです。もともとは、奈良時代以前に中国から伝わった呉音を用いて「しちねん」と読んでいましたが、のちに唐の時代に伝わった漢音が広まり、「しつねん」となりました。

2.査収(さしゅう)
~たんに受け取るだけでなく内容を確認しなければならない

 ビジネスで書類などを受け取るときに、「ご査収ください」と書き添えられていることがよくあります。「査」は、「調査」や「審査」のように「まんべんなくしっかり調べる」「調べ考える」という意味があります。したがって、「査収」はたんに収めるのではなく、しっかりと内容を確認したうえで収めることを表すのです。「ご査収ください」と書かれていたら、受け取るだけでなく内容をきちんと確認しましょう。

3.平素(へいそ)
~「平」も「素」も「普通のさま」を表す

 「平」は、誰もがイメージする「平らかであること」のほかに、「何もなく普通である」という意味もあります。「素」は、「何も加えていない」「もとの状態」を表します。つまり、「平」も「素」も、「特別なことのない普通のさま」を表し、合わせて「つねひごろ」や「ふだん」を意味するのです。「いつもお世話になっております」よりも「平素よりお世話になっております」のほうが格式高く感じられます。

4.適宜(てきぎ)
~「適」も「宜」も「ふさわしい」の意味

 「宜」は、神に肉を捧げることを表す字で、その肉が供え物としてふさわしいことから、「よろしい」という意味があります。「適」も「かなう」と訓読みするように「ふさわしい」などの意味があります。合わせて「その場に合っていること」「ちょうどいいこと」を表すのです。

次のページ
「語弊」「鞭撻」の意味は?