「まさかこのタイミングでと思った。感染者の出た高校とは対戦経験もある。下手をすれば大会すべてが中止になる。平高だけでなく島根県が全国に大迷惑をかける」

 平田にユニフォームなどを納品する野球用品店・マツウラスポーツ代表の松浦康之氏。同校を見守り続けてきた身として、気が気ではなかった。

「自分1人が自粛しても関係ないかもしれない。でもこの状況下では行くべきではないと思った」

 今大会、球場内での観戦は登録した関係者のみに限定されていた。しかしそれでも甲子園近郊までは足を運ぼうと考えていた。これまで接してきた選手たちを激励したい。しかしその思いを封印、甲子園行きを直前で取りやめた。

 8月11日、待ち望んだその日、平高はミスもあったが創成館(長崎)相手に健闘と呼べる戦いをみせた。『たられば』だが1つ違えば勝てた可能性すら感じさせた。

「最高の場所で自分の思った通りにやれ」

「いや、自分の思った通りだけではダメ。勝てません」

 大会前、平田の選手たちに声をかけたところ、横にいた植田監督から即座にたしなめられた。穏やかな口ぶりだったが、眼は笑っていなかった。『思い出作り』のため甲子園に来ているのではないのが理解できた。

 21世紀枠は12連敗(今交流試合は通算勝利数などに加算されないが)」と試合後、マスコミ各社は報じた。

「全国レベルに達していない学校に大会出場の価値があるのか?」という論調も強い。しかし、今回の平高の戦いぶりは、決して悲観されるものではなかった。数字だけで括れるものではない。

 大きな夢はかなったが、その先には難題がある。現実的な過疎化、少子化の問題に平高は直面しつつある。

「どんどん生徒数も減っている中、まずは学校存続ができるのか。近い将来、合同チームで参加という可能性もある」(松浦康之氏)

 そんな状況下だったが、先を見据えた今大会参加であったことも確かだ。

「今回、1年生部員がベンチに入った。普通にセンバツ大会が開催されていたらできなかった。これからの平高のためにやったことだと思う」(樋野徹氏)

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“次”の出場も期待したい平田高校