だが、捨てる神あれば拾う神あり。当時アルバイトをしていた編集プロダクションから営業職としての採用の声がかかり、正社員となることができた。しかし……社内のパワハラが原因でわずか3か月で退職。「和解金」として会社から振り込まれたお金を元手に投資を始め、現在は株式投資の配当などで生活しているという。

 そんな輝樹さんに“恋”が芽生えたのは、およそ3年前。癒やしを求めてカフェを訪れた輝樹さんに、武井咲似の美人店員が声をかけてきたという。

「“彼氏と別れちゃって~”とか言われたら、僕としてもスルーするわけにはいかないですよ」

 女性の誘いに乗る形で、食事の約束を取り付けた。

「何を食べたいか聞いたら、“焼き肉!”って言われたことに驚きました。猫カフェの店員さんって動物にやさしいイメージだったので、いきなり牛を食うのかと……。なんかギャップを感じました」

 輝樹さんいわく、“金持ちな客”と勘違いされていたようで、徐々に女性の態度が豹変していったという。

「僕が庶民的な人間だと知ってからは、“彼氏ができて~”って薬指の指輪をチラチラされました」

 今まで食事をおごってきたこともあって、輝樹さんのテンションはガタ落ち。すぐに帰りたい気持ちで一杯だったが、自分の中でグッと堪えて我慢した。

「猫カフェ店員が猫かぶって僕に近づいてきて、“なんか違う”って思ったら逃げる……。これって食い逃げですよね」

 この件で、心に深い傷ができてしまった輝樹さん。「最近の僕はジェンダーロールを降りている気がします」とのことで、恋愛からは遠ざかっているようだ。現在は女性には見向きもせず、会計関係の資格取得や、趣味である食べ歩きにと忙しい日々を送っている。

 高校中退からフリースクールに通って、早稲田大学に入学するだけでも相当な努力家だろう。それでも、就職氷河期で満足な職にはつけず、意中の女の子には“食い逃げ”をされてしまう。これほどまで人生というものは思い通りにいかないものなのか。本当に「諸行無常」の世の中である。(取材・文=吉田みく)