両エリアのタワマンを購入している層は、属性が重なる。主に「ニューカマーのプチ成功者」と呼べる人々だ。大学入学もしくは就職で東京にやってきて、サラリーマンや自営業などでそこそこの成功を収めた人々。世帯年収は1400万円~2000万円あたりが中心だろう。

 特にマンションの価格が高騰した2017年以降に購入を決めた人々は、世帯年収が1400万円以上のパワーカップルが多いとされる。武蔵小杉にタワマンブームが起こったばかりの頃は、専業主婦の奥さんが日中にベビーカーを押して街を歩き、ママ友同士でお茶をする「ムサコマダム」が目立ったが、最近のパワーカップルはそれほどの余裕はなさそうだ。子どもは保育園に預けて、奥さんも働くカップルが主流になった。

 そうしたカップルがペアローンを組んでいることも多いが、もし夫婦のどちらか一方の収入が途絶えたり、著しく減少するとローン返済には無理が生じてくる。コロナはそのリスクを増大させる。もしそうなったら、せっかく購入したタワマンも泣く泣く売ることになるかもしれない。ニンバイ(任意売却)である。

 湾岸や武蔵小杉エリアでは、このニンバイが続出する可能性がある。売り物が多ければ、中には売り急ぐ人も出てくる。そういう場合は価格をグっと下げなければいけないが、そんなケースが多くなれば市場には強い下落圧力となる。

 そもそも武蔵小杉のタワマンは実力以上に高くなり過ぎた。新築タワマンの坪単価は400万円に迫っている。これは文京区内で普通の新築マンションが買える水準だ。不動産のプロからみると、ありえない価格なのだ。コロナ不況によって、その価格は調整されていくはずだ。

 いっときの人気を失った今、この街のタワマンの未来は“正念場”を迎えている。(文=住宅ジャーナリスト・榊淳司)