そこへ台風19号の被害が加わったのだから「住みたい街ランキング」の順位は落ちるだろう。人気が下がれば価格も落ちていく、と考えるのが普通だろう。しかし、実際にはそうなっていない。

 データで示そう。台風19号があった19年10月以前に成約した武蔵小杉駅周辺のタワマン20物件と、被災した以降に成約した20物件を比較してみる。

 データ抽出の条件は「東急東横線・武蔵小杉駅・徒歩7分以内のタワマン」にそろえた。データは、日本で最も多くの中古マンション取引が登録されているであろう不動産流通機構の資料を参照して、私が独自に調べたものだ。

 まず、台風前に成約した20物件の平均坪単価は300万円、階数の平均値は24、竣工年数の平均は2011年。一方、台風後から今年6月までに成約した20物件の平均坪単価は315万円、平均回数は22、竣工年数の平均は2011年だった。

 坪単価は落ちていないどころか、むしろ少し上がっている。ただし、このデータだけで「資産価値は下がっていない」と判断するのは早計だ。

 もうひとつの気になるデータを示しておく。前述の「2」に関する指標である。

 台風19号が日本を襲ってから約8カ月後の今年の6月11日までに、「東急東横線・武蔵小杉駅・徒歩7分以内のタワマン」では約60件の取引が成立している。

 では、その1年前はどうだったか。同じ条件で2018年10月14日~2019年の6月11日までの8か月間の成約数を調べてみると、その数119件。実に2倍以上もあったのだ。

 つまり、台風19号以降の中古タワマンの取引は、前年の同時期と比べて成約のペースが半分に落ちたということだ。

 ただ、特殊な事情もある。今年の4~5月はコロナの影響で大手の仲介会社は案内業務を軒並み休止していた。それゆえ、4月の成約数は極端に少なくなっている。

 それを考慮しても、半減ともなれば、統計上でも「有意」と認められる変動だろう。

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あまりに安い成約価格は“表”に出ない