武蔵小杉駅周辺のタワーマンション(C)朝日新聞社
武蔵小杉駅周辺のタワーマンション(C)朝日新聞社

 2019年10月中旬に日本列島を襲った台風19号は、マンションの在り方を考える上でも大きな“爪跡”を残した。川崎市の武蔵小杉駅付近に建つタワーマンションが浸水し、エレベーターがストップ。下水が逆流するなど、衝撃的な映像が流れた。

【写真】台風19号で増水した多摩川と周辺住宅の様子

 私のところにも多くの取材依頼があった。住宅ジャーナリストとして、私は11年ほど前からタワマンに対して否定的な言説を発し続けてきたが、「タワマンは災害に強い」という神話を信じている人がまだ多いことに驚いた。だが、武蔵小杉のタワマンが無残にも浸水し、停電している映像を見た視聴者は、やっとその脆弱性に気付いたのではないだろうか。

 さらに「武蔵小杉のタワマンは資産価値が下がるのか」「被災したタワマンの資産価値はどれくらい下がるのか」という質問も多かった。これについては、被災から時間がたった今、市場に出ている客観的な数字から「答え合わせ」ができる。

 今回は、数々の指標から武蔵小杉のタワマン市場がどう変化したのかを分析してみる。

 結論から先に述べよう。明確に言えることは次の3点だ。

1 武蔵小杉エリアのタワマン価格は下落していない
2 ただし、流通市場の成約件数は激減している
3 当該の被災タワマンは、昨年10月以降成約が確認できない

 まず「1」から考察する。あの台風による水害で、武蔵小杉周辺は「水害に弱いエリア」「もとは沼だった」「ハザードマップでは危険エリア」などの風評が出回った。また「住みたい街ランキング」で順位が下落したとか、圏外にまで落ちたという記事も多く見受けられた。

 そもそも、武蔵小杉駅については2018年の秋ごろから「改札に30分待ちの長蛇の列」といった報道が目立ち始めていた。私も「30分家を早く出るのなら、大船駅あたりに住んだ方がお得だ」という趣旨の記事を何本か書いた。実際、大船駅なら武蔵小杉駅の6割程度の価格で築浅かつ広めの中古マンションが買えるのだ。

次のページ
台風後に成約件数は「半減」した