日本での5年間で1051回1/3を投げて1204奪三振、実に10.31という驚異的な奪三振率をマークしているが、それも手を抜かないピッチングスタイルだったからこそである。また、フォークボールと言えば一般的にはボールの回転数が極めて少ないボールであるが、野茂の場合は打者からストレートと見分けがつかないように、意図的にボールに回転を与えていたという。そういった工夫も、少ない球種で結果を残せた要因だろう。

 野茂以降では上原浩治(元巨人など)もストレートとスプリットのみで結果を残した投手と言える。しかし上原はあらゆる意味で野茂とは対象的である。アマチュア時代やプロ入り直後はスライダー系のボールやナックルカーブも投げていたが、メジャーに移籍後は本格的にリリーフに転向したこともあって、球種をどんどん少なくしていったという経緯がある。そして最大の武器であるスプリットも落差の大きさに変化をつけ、またシュート回転、スライダー回転させるなど豊富なバリエーションを誇っていたのだ。そういう意味では、実際に投げていたボールの種類は多彩だったとも言える。

 意外なところで球種が少なかった投手と言えば山本昌(元中日)も当てはまる。飛躍のきっかけとなった本人の代名詞ともいえるスクリューボール以外にはカーブを投げるだけで、持ち球としてはスライダーがあったものの、意図的にほとんど投げなかったという。

 実際に本人に話を聞いた時にはスライダーを投げるのは簡単ではあるが、その分カーブなどの他のボールに悪影響を与える危険性もあるとも語っていた。事実、前田健太(ツインズ)のように、アマチュア時代は大きなカーブが武器だったピッチャーが、プロ入り後にスライダーを覚えたことでカーブの落差がなくなってしまったケースもある。また、山本昌の球種の配分を見てもストレートの比率が非常に高く、スピードはなくてもそのスタイルは本格派に近かったと言える。

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打者を抑えるのに本当に必要なことは?