左から太宰治、芥川龍之介、志賀直哉(C)朝日新聞社
左から太宰治、芥川龍之介、志賀直哉(C)朝日新聞社

 女子プロレスラー・木村花さんの死は、大きな衝撃をもたらした。恋愛リアリティーショーと銘打たれた人気番組「テラスハウス」(ネットフリックスなど)に出演していた彼女は、自身のSNSなどで激しい誹謗中傷を受け、5月23日、自ら命を絶ったと見られている。

【写真】炎上させないけど鋭い「コメント力」が高すぎる人気アイドルとは

 6月5日放送の「世界にいいね!つぶやき英語」(Eテレ)ではこの問題をとりあげ、MCの爆笑問題・太田光がネット上でのトラブルについてこんな指摘をした。

「気になって見ちゃうんだよね、検索して。太田死ね太田死ね太田死ねっていう文字を構成して、太田死ねって書いてあるんです。この俺がこんなに落ち込むんだから、若い子たちにこれは堪えられないだろうなって」

 毒舌が売りの芸人としては、こうした問題は大きな関心事なのだろう。また、彼はけっこう神経質で、自分のネタが差し障りがないかどうかを意外と気にするらしい。これは以前、同じ雑誌で連載をしていたとき、共通の編集者から聞いた話だ。

 そんな太田は作家・太宰治のファンとして知られ『人間失格ではない太宰治』(新潮社)というアンソロジーを編んだこともある。そして、太宰もまた、言葉によるトラブルに事欠かなかった。

 新人時代、芥川賞を取れなかったときには「川端康成へ」という反論を書いている。これは選考委員の川端に「作者目下の生活に厭な雲ありて」と私生活を批判されたため、キレたものだ。

「小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんな立派な生活なのか。刺す。そうも思った」

 現代のネット社会なら、運営にアカウントを凍結されかねない内容だ。とろサーモン久保田がM‐1の直後に上沼恵美子に毒づいたときも、ここまで過激ではなかった。

 ではなぜ、太宰がそこまで芥川賞にこだわったのかといえば、芥川龍之介を大好きだったからだ。一方、芥川と同世代の志賀直哉を嫌い、晩年にケンカをふっかけた。また、芥川は志賀に憧れ、ある意味、片思いのような関係だった。

著者プロフィールを見る
宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

宝泉薫の記事一覧はこちら
次のページ
芥川も誹謗中傷に悩んでいた