木村花さん=「テラスハウス」ホームページから
木村花さん=「テラスハウス」ホームページから
精神科医の香山リカさん(C)朝日新聞社
精神科医の香山リカさん(C)朝日新聞社

 23日、プロレスラーの木村花さんが22歳の若さで急逝した。出演していた人気番組「テラスハウス」(フジテレビ系、ネットフリックス配信)内での言動がきっかけで、3月末の配信以降、木村さんのSNSには誹謗中傷が続いていた。自宅マンションから遺書が見つかっていたとの報道もあり、SNS上での誹謗中傷が命を絶った原因だったのではとの見方も強い。

【写真】ネット上の誹謗中傷は韓国でも芸能人を死に追い込んでいる

「テラスハウス」はシェアハウスで暮らす男女6人の恋愛模様を描いた「リアリティー番組」として人気を博している。登場人物の心理が巧みに描かれるリアリティー番組では、放送後、出演者のSNSやブログに感情移入した視聴者から批判が書き込まれるケースも散見される。テレビ離れが叫ばれているなかで、なぜ視聴者はそこまでリアリティー番組に感情移入し、他人を攻撃するまでになるのか。『ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか』の著者で、SNSでの人間心理に詳しい精神科医の香山リカ氏に聞いた。

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――昨今のリアリティー番組では、視聴者が出演者のSNSにコメントを寄せるケースが増えているように思います。その視聴者の心理はどういったものなのでしょうか。

香山氏 SNSの発達により、ネットでの発言が名も知らぬ誰かを退職に追い込むなど、その現実を変えることが可能になってしまいました。

 リアリティー番組も、SNSの登場以降は「参加型」になりつつあります。SNSで意見を言うことで、「自分の書き込みによって、今後の出演者の態度が変わるかもしれない」と、自分も番組に参加しているような感覚が得られるのです。

 著名人とつながった感覚、自分の言葉によって他人の人生や現実を変えることができる期待感が持てるようになりました。そういう意味でSNSは、自分が大きな力を手にしたかのような全能感に浸ることができる「魔法のツール」だとも言えるのです。

 SNSは、今日は何を食べた、どこにデートに行ったという私生活を発信者が自ら不特定多数に披露する、というこれまでになかったツールです。フォロワーはもっとその人の日常を見てみたい、恋愛模様をのぞき見したいといった欲望がかき立てられます。そういう意味で、リアリティー番組は「その人の日常をのぞき見ている感覚」という点で、SNSそのものの機能とも類似しています。リアリティー番組はその「のぞき見たい」という欲求に応え、映像も含めて見せてくれるものです。その共通点が、両者の結びつきをより強くしているのではないでしょうか。

 特に今はコロナ禍によって、仕事が減ったり、就職活動がうまくいかなくなったりと、現実がうまくいかない人が増えています。家にいる時間も長いため、さらにストレスがたまります。そんな時、SNSで得られる万能感で他者の人生に影響を与えてやろうという気持ちが高まり、さらに不満を晴らすために他者を攻撃する行動に走ってしまいやすい。暗い欲望が増幅しやすい時期に、今回の木村さんへの誹謗中傷が集中してしまったのだと思います。

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番組の「演出」が理解できなくなった視聴者