――以前であれば、テレビ番組に演出はつきものだという「暗黙の了解」が視聴者にあったように思います。今回の事件は、テレビの演出と現実が混同されているように感じますが、なぜリアリティー番組に視聴者はそこまで感情移入してしまうのでしょうか。

香山氏 インスタやツイッターの利用によって、誰もが自分の私生活を他人に見せるのが当たり前の感覚になりました。SNSの普及を機に「自分の私生活を知ってもらうこと」も「他人の私生活をのぞき見すること」も抵抗がなくなってきた。「他人の恋愛模様をのぞき見する」リアリティー番組はその延長にあると思います。SNSに公開する内容は「盛ってる」とみんな知りながらも、「完全なウソはダメ」という暗黙の了解があります。リアリティー番組も同じです。完全に自然な現実ではないにせよ、過剰なやらせやウソではないだろう、と思いながら見ているわけです。

――こうしたSNSの投稿には「アンチ」に近い発言も多くみられます。彼らの行動はどういった心理に基づくものなのでしょうか。

香山氏 本人なりに社会的な正義に基づいた行動だという正当化があるのではないでしょうか。憂さ晴らしではなく、みんなが怒っていることに自分も加わって、間違っている人を成敗している、世の中を良くすることに役立っているんだという意識があるのだと思います。とはいえ、彼らは誹謗中傷をしている対象と建設的な議論がしたいわけではありません。強い言葉でその人の存在自体をおとしめたり、数の力で黙らせたりすることが「議論の勝利」だと思ってしまっている。また、住所や家族の情報など、相手が困るような情報をさらすことでも、勝利を収めた感覚を得ているのだと思います。

――韓国でも、SNSでの誹謗中傷による芸能人の自殺が相次いでいますが、こうした事象は世界共通なのでしょうか。

香山氏 欧米だと、「個」の意見を確立することが大事であり、必要なときには議論をすべきだ、という教育を幼い頃から受けているため、たとえ誹謗中傷を受けても自分の頭で考え、相手が正しくないと判断すれば、きちんと言葉で応酬する土壌があります。

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「同調圧力」はあったのか