翌01年、前年まで2年連続最下位と低迷していた近鉄は、2年目の梨田昌孝監督の下、西武、ダイエーとの三つ巴の争いから抜け出すと、9月24日の西武戦(大阪ドーム)で2点を追う9回に代打・北川博敏のソロと中村紀洋のサヨナラ2ランで劇的な逆転勝利。マジックを「1」とした。

 同26日、近鉄は12年ぶりVをかけてオリックス戦に臨むが、9回表まで2対5の劣勢。奇跡のドラマは、ここから始まった。

 その裏、先頭の吉岡雄二が左前安打で反撃の火ぶたを切る。川口憲史も一塁線を破り、二、三塁とチャンスを広げたあと、代打・益田大介が粘って四球を選び、無死満塁。次打者・古久保健二のところで、梨田監督は「代打・北川!」を告げた。

 2日前、松坂大輔から逆転の呼び水となる貴重な一発を放った“持っている男”の登場に、スタンドの近鉄ファンのボルテージも一気に上がる。

 だが、この時点では、指揮官も北川本人も一発大逆転を狙っていたわけではなく、「ゲッツーだけは避けたい」が本音。上位打線につないで、ローズ、中村の3、4番で勝負をかけるつもりだった。

 たちまち2ストライクと追い込まれた北川は、1球見送ったあと、大久保勝信の4球目、併殺狙いのスライダーに泳ぎながらも、「何とかしたい」の一念から、すくい上げるようにして、無我夢中で振り抜いた。「少なくとも野手の間を抜ける」と確信した打球は、思っていた以上にグングン伸び、あれよあれよという間にバックスクリーン左に突き刺さった。

 一瞬にして6対5でゲームセット。前年最下位からの優勝は、パ・リーグ史上初の快挙でもあった。

 “筋書きのないドラマ”を地でいくような大逆転勝利にスタンドは興奮のるつぼと化し、北川も「ワーワーとものすごい歓声が耳の中に飛び込んできたことしか覚えていない」という。代打逆転サヨナラ満塁優勝決定本塁打&釣り銭なしは、メジャーも含めて史上初だった。

 サヨナラ本塁打の歴代トップは、清原和博の12本(以下2位・野村克也11本、3位・中村紀洋10本、4位・王貞治&若松勉8本)。

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清原はやっぱり“持っている男”