アウトプットの重要性について、正頭さんはアドラー心理学を解説したベストセラー『嫌われる勇気』を用いた実験を例に挙げる。
「10人に読んでもらい、終わったあとアドラー心理学についてきちんと説明できた人は、たった1人でした。10人中9人は内容を忘れていた。つまり、インプットをアウトプットに結び付けなければ、学びは無駄になってしまうのです」
休校中のいま、学校がアウトプットの学びを提供することは難しい。そこで正頭さんは、親が子どものアウトプットの相手になることをすすめる。
「『あとで本の内容をお母さんに教えて』『お父さんも知りたいから、まとめてくれるかな』と声をかける。『おもしろい内容だね。自分でも書いてみる?』と創作意欲を刺激する。どれも難しいことではありません」
コロナウイルス禍によって何を失ったのか、または得たのかについても、各家庭で考えておきたい。
「僕の専門である英語に限っていえば、日本人が海外にいく機会もインバウンドも激減したいま、『英語が話せる』という価値はどんどん下がっていくでしょう。翻訳アプリ『DeepL』は、僕の見立てでは英検準1級レベルくらいの精度はありますから、頑張って勉強してもアプリが代わりにやってくれます。子どもの英語学習のモチベーションを維持するには、英語を学ぶ新たな価値を見出してあげないといけないのです」
英語習得に最も効果的なのは「とにかく長く続けること」だと正頭さんはいう。
「英語は習得までだいたい4000時間ほどかかるとされています。小中高の英語の授業はトータル1000時間程度ですから、授業だけで習得できるかというと理論上ありえません。大事なのは家庭学習です。低学年で最も効果的なのは、絵本の読み聞かせです。親がたくさん読み聞かせてあげてください。英語力に自信がなければ、テクノロジーに頼りましょう。Far Fariaというアプリは、感情込めて音読してくれておすすめです」
休校で時間をたっぷり得たいまだからこそ、できる学びもある。没頭しているうちに、いつしかそのものが好きになる。そんな学びだ。夏休みにしかできなかった「自由研究」もそのひとつ。
「『日本より米ニューヨークでコロナ感染が広がったのは、英語にはp・t・bといった破裂音が多いからではないか?』と仮説をたてて調べようと、僕に質問してきた小学生がいました。その疑問を持ったきっかけは、おそらく時間がたっぷりあったから。いまは、そんな子どもの『気づきの力』を伸ばすチャンスです。テストで点を取るための短期的な学びではなく、やり続けるうちにゆっくりでも成長を自分で実感でき、いつしかそのものが好きになるような長期的な学び。それこそが『コロナの時代』の学びなのだと思います」
その際、親は成果をほめるのではなく、「昨日よりがんばったね」などと「努力」や「プロセス」をほめてあげるとよい。正頭さんは言う。
「いまこそ子どもに学びの本質を教える大きなチャンスなのです」
(文/曽根牧子)
#プロフィール
正頭英和(しょうとう・ひでかず) 立命館小学校英語科教諭・ICT教育部長。1983年大阪府生まれ。関西大学大学院外国語教育学修了。人気ゲーム「マインクラフト」を活用したユニークな問題解決型授業がイギリスの教育団体に評価され、2019年、「教育界のノーベル賞」といわれる「グローバル・ティーチャー賞」トップ10に、約150ヵ国・3万人の中から日本人小学校教員として初めて選ばれる。AI時代の教育をテーマにした講演も。