本誌月例コンテストで選者を務める平間至さんが東京・三宿に「平間写真館TOKYO」をオープンしたのは5年前。
昨年春、ここで撮影したポートレート写真を「平間至写真館大博覧会」と題してニコンプラザ「THE GALLERY(東京と大阪)」に展示した。間近でプリントを見ると、モノクロの美しいトーンがとても印象に残った。作品づくりのコツを聞いてみた。
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「それは暗部のつくり方でしょうね。でも、特殊なことはぜんぜんやっていないです。心がけているのは、できるだけ写真として自然な描写をすること。デジタルの撮って出しの状態で、ほぼイメージどおりになるようなライティングと露出で撮影しています」
つまり、シャッターを切った瞬間に絵を完成させるのだという。
「デジタルだからといって、ラフに撮って、後で露光量やコントラストを調整しすぎてしまうとバランスが崩れてしまう。それが画面に出てしまいます」
「でも、そこまで気を使わなくても最近のデジタルカメラはよく写るじゃないですか」と、疑問をぶつけると、露出に対する考え方が根本的に違うのだという。
「『写るには写る』『とりあえず写る』とか、『露出がダイナミックレンジに収まっていればいい』的な考えはいっさいないんです。シャドーからハイライトまでのトーン、その元となるのが『特性曲線』(左の図)です。露出を上げ下げすることによって特性曲線のどの部分を使うかが変わってくる。それがトーンに影響してくる。プリントの覆い焼き、焼き込みもある意味、トーンのバランスを崩している。一部のバランスを崩しながらも画面全体のバランスをとるわけで、基本的にはしたくないんです」
幼いころから平間さんの体には写真のトーンというものが染みついているのだろう。
1963(昭和38)年、平間さんは祖父の代から続く写真館「ひらま写場」(宮城県塩竃市)で生まれ、育った。
「写真を撮る、ということではいろいろ鍛えられているんだろうな、と思います。ある意味、英才教育ですから。ほんとに」
子どものころ、学校から帰ると証明写真用に撮影したシートフィルムの現像作業に見入った。
「それをさらに修整をするんです。いまでいうレタッチ。肌のしみなどのハイライトに鉛筆で黒をのせていく。6Hとか硬い鉛筆の芯をすごく細長く伸ばして、力が入らないようにして」
「まさに職人芸ですね」
「ほんとうにそのとおりです。最近、自分で写真館をやり始めて気づいたんですが、これまでさまざまなメディアで撮影してきたことは写真館をやるための修業だったんです。それにようやく気づきました」