そしていま、平間さんの手に握られているのはデジタルカメラ、ニコンD5である。

 写真館を訪れた人に自由に動いてもらい、撮るというやり方は、従来の写真館にはない斬新なスタイルだ。

 その一方で、きわめてオーソドックスな部分もある。露出についてがそうだ。

「露出はほぼすべてマニュアルです。天候や場所によって光がどんどん変わっていく屋外でも基本的に露出はマニュアル。そのほうが撮影後も画像を扱いやすいんです。RAW現像時も画像のパラメーターはできるだけいじらない」

 理由を聞くと、「画像はいじればいじるほど『デジデジしちゃう』んですよ」。

 マニュアル露出の根底にあるのは長年、ポジフィルムで撮影してきた経験だという。

 87年、平間さんが日本大学芸術学部を卒業した当時、カラー印刷の原稿はほぼすべてポジフィルムだった。

「基本的に印刷原稿でネガ(フィルム)というのはなかったですね。あっても特殊な場合です。作品とか。印刷原稿は圧倒的にポジフィルムが主流でした」

 その撮影ノウハウがデジタルとなったいまもそのまま生かされている、というか、「ポジで撮っていた状態とまったく変わらないです」。

 ポジフィルムの露出はかなりシビアだ。デジタルのRAW画像の場合、明るさのスライダーを動かすことで明暗をかなりの幅で調整できる。

 一方、ポジフィルムの明るさの調整は「増減感によるトーンの変化を考慮すると、最大プラス側で3分の2まで、マイナス側で3分の1まで。それを超えてしまうとフィルム本来の特性が崩れてしまう。デジタルでもなるべくその精度で撮りたいと思っています」。

 平間さんは同じ写真家でも、作家系の人よりも広告系の人のほうが露出に対する見方が厳しいと語る。

 さらに、「フィルムで写真を撮り始めた人とデジタルで始めた人とではそのへんの感覚がだいぶ違う。『露出を計算する』という点ではやはり、ポジフィルムで撮っていた人がいちばんシビアだと思いますね」という。
(文・アサヒカメラ編集部/米倉昭仁) 

※『アサヒカメラ』2020年4月号より抜粋。本誌では平間さんによる露出計の詳しい活用法なども含めて、実際の作品と共に8ページにわたって掲載している。