身から出た錆で、たくさんの方に迷惑をかけてしまった。そして、その流れを食い止めるべく迅速に開いた会見でも、回答の齟齬をつかれ、火に油を注ぐことにもなってしまった。

 もう迷惑はかけられない。もう自分の言葉でこれ以上の被害を生んではいけない。その強い意識が、これまで見たことがないほどのスローモーな話し方に繋がったのだと確信した。

 当然、軽い内容のインタビューではないので、基本的に言葉は重たくなり、表情はどうしても強張る。そんな中、インタビューとして内容に幅を持たせること、そして、徳井の現状を端的に見る手段として、あえて笑いの要素を引き出すようなことを最後に尋ねた。

「活動自粛中の日々を振り返って、あらためて客観的に見てみると『あの時の自分には笑ってしまう』というようなタイミング、あったりします?」

 その質問をぶつけた瞬間、これまた、驚いた。先ほどまでの沈痛な面持ちから、ウソみたいに顔が変わったからだ。分かりやすく言うと、疲弊し老けた印象のある顔から、毎日テレビに出ていた頃の顔に一瞬で戻った。

「時間はたくさんあったので、食事は普段作らないような料理にも挑戦しまして。中でも、タコスにハマりました。タコスって、普通、包む皮は市販の物を買ってきて、中身の変化でバリエーションをつけるじゃないですか? でも、あの皮から作るんです。皮から作ったタコス、どれだけおいしいか! これは驚きました。……ただ、一人で毎日粉をこねてタコスの皮を作っている自分を俯瞰から見た時に、そら思いますよね。『オレ、何してんねん』と(笑)」

 エゴサーチで出てくる「徳井を見ると気分が悪い」という書き込みに心を折られた「少しでも人に楽しんでもらいたいと思ってやっている仕事なのに、自分は『見ると気分が悪い』存在になっている。お笑いの仕事を続ける意味があるのか」。辞めることを何回も考えた。

 得意な料理を生かした飲食の仕事など、いくつかの転職候補を本気で考えたが、結局、お笑い以上に好きになれそうなものがなかった。その思いで今一度再出発の道を選んだ。

 ここでも言葉を選びながら、たっぷりと時間をかけてお笑いへの思いを説明していたが、タコスの話をしている時のイキイキとした表情。それが全てを雄弁に物語っていた。 (中西正男)

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中西正男

中西正男

芸能記者。1974年、大阪府生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当として、故桂米朝さんのインタビューなどお笑いを中心に取材にあたる。取材を通じて若手からベテランまで広く芸人との付き合いがある。2012年に同社を退社し、井上公造氏の事務所「KOZOクリエイターズ」に所属。「上沼・高田のクギズケ!」「す・またん!」(読売テレビ)、「キャッチ!」(中京テレビ)、「旬感LIVE とれたてっ!」(関西テレビ)、「松井愛のすこ~し愛して♡」(MBSラジオ)、「ウラのウラまで浦川です」(ABCラジオ)などに出演中。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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