槇原敬之容疑者 (c)朝日新聞社
槇原敬之容疑者 (c)朝日新聞社
中山秀紀(なかやま・ひでき)/1973年、北海道生まれ。医学博士。独立行政法人国立病院機構「久里浜医療センター」精神科医長。専門領域は、臨床精神医学、アルコール依存症。2000年、岩手医科大学医学部卒業。04年、同大学院卒業。岩手医科大学神経精神科助教、盛岡市立病院精神科医長を経て、10年より久里浜医療センター勤務。同年、「第45回日本アルコール・アディクション医学会優秀演題賞」受賞。19年、「第115回日本精神神経学会学術総会優秀発表賞」受賞。11年よりネット依存治療研究部門に携わる
中山秀紀(なかやま・ひでき)/1973年、北海道生まれ。医学博士。独立行政法人国立病院機構「久里浜医療センター」精神科医長。専門領域は、臨床精神医学、アルコール依存症。2000年、岩手医科大学医学部卒業。04年、同大学院卒業。岩手医科大学神経精神科助教、盛岡市立病院精神科医長を経て、10年より久里浜医療センター勤務。同年、「第45回日本アルコール・アディクション医学会優秀演題賞」受賞。19年、「第115回日本精神神経学会学術総会優秀発表賞」受賞。11年よりネット依存治療研究部門に携わる

 覚醒剤と危険ドラッグ所持の疑いで逮捕された槇原敬之容疑者。1999年の1度目の逮捕から20年以上が経過していただけに、その衝撃は大きい。果たしていつから薬物を再開していたのか、その依存度はどの程度のものなのか、注目が集まっている。

【写真】解説の中山秀紀氏

 そもそも「依存症」とは何なのか? 久里浜医療センターの精神科医長、中山秀紀氏の新刊『スマホ依存から脳を守る』から、スマホ依存を通した「依存症」についての解説をお届けする。

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■「快楽」と「不快」の同時進行

 人は「快楽」を得るために依存物を使います。「快楽」を得ることによって、より「幸福」になろうとします。ところが依存物を使いすぎて依存症になると、依存物で「快楽」を得られる(正の強化)ものの「幸福」というゴールに至るのではなく、依存物を使わないときにはいつも「不快」(負の強化)が生じてしまうのです。

 依存症の人はしばしば、依存物を使用する間は「快楽」を得られるので、それに満足して「幸福」になれると信じて使い続けます。しかし同時に、負の強化も進行していきます。そして実際には、いつの間にか、自らが依存症の負の強化によって「不快」になっていることに気づきにくくなります。

 もちろん依存物をたくさん使用することによって、たとえばアルコール依存症の場合、多量飲酒によって肝臓が悪くなる、違法薬物やギャンブル依存症の場合にはお金がなくなる、人間関係が悪くなる、インターネット依存症やオンラインゲーム依存症の場合は学業成績が不振になるなど、依存症特有の悪影響によって「不快」になる場合もあります。それらの悪影響による「不快」解消のために、さらに依存物を使うこともあるでしょう。しかし世の中には肝臓が悪いことや、お金がないこと、人間関係が悪いこと、学業成績が不振になることをあまり気にしない人もいます。そういう人たちでも、依存症の負の強化によって脳内が「不快」になると、やはりその解消のために依存物から離れがたくなってしまうのです。

「でも、ちょっと待ってください」と、あなたは思うかもしれません。「楽しい(快楽を得られる)ことをたくさんしている人は、幸福なのではないでしょうか?」と。

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依存症の場合は「その逆」?