キレキレトークは健在だった島田紳助さん(C)朝日新聞社
キレキレトークは健在だった島田紳助さん(C)朝日新聞社

 2011年8月、島田紳助さんは引退を発表した。そのきっかけは、彼と暴力団関係者の間で親密な関係をうかがわせるメールを交わしていたことが明らかになったことだった。所属事務所が本人に事情を聞いたところ、彼は少し沈黙した後、「引退します」と言い放ったという。

 当時の島田さんは『行列のできる法律相談所』『人生が変わる1分間の深イイ話』『開運!なんでも鑑定団』『クイズ!ヘキサゴンII』など、数多くのゴールデンタイムの番組で司会を務める人気芸人だった。我が世の春を謳歌していた彼は突然、芸能界から姿を消した。

 引退してから島田さんはテレビやラジオなどのメディアに一切出ていなかった。そんな彼が人前に顔を出し、話をするところが久しぶりに公開された。歌手のmisonoのYouTubeチャンネル『misono ch』内の動画で、島田さんはmisonoと俳優の山田親太朗と共演し、20分以上にわたってトークを展開した。

 misonoと山田は、島田さんが手がけていた『ヘキサゴン』のレギュラーメンバーの一員だった。動画の中でも語られている通り、『ヘキサゴン』は島田さんが最も思い入れを持っていた番組だった。常識的なクイズ問題すら解けない若手タレントを「おバカタレント」としてキャラ付けしていった。

 彼らのおバカっぷりが世間に十分浸透したところで、そのメンバーの中から「羞恥心」というユニットを作って歌を歌わせた。おバカな彼らの格好良さを全面に出すことで、世間に驚きを与えた。羞恥心の出したCDは40万枚を超える大ヒットとなり、彼らは『NHK紅白歌合戦』にも出場した。

 これ以外にも番組内で多数のユニットが結成され、コンサートなどの音楽活動が行われた。『ヘキサゴン』は単なるクイズ番組の枠を超えた一大プロジェクトに成長していた。紳助はこの番組の出演者のことを「ファミリー」と語っていた。その交流は引退後も続いていたようだ。

 久しぶりに表に出てきた島田さんの話術は全く衰えていなかった。misonoと山田という扱いづらいおバカキャラの2人を巧みにさばき、笑いを起こすその姿は、ゴールデン番組を仕切っていた時代と何も変わらなかった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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