これを見て個人的に思ったのは「島田紳助さんがYouTuberになったら最強だろうなあ」ということだった。知名度、話術、人脈、専門知識、企画力、行動力、趣味の豊富さなど、島田さんはYouTuberに必要なあらゆる要素を高いレベルで備えている。子供や若者にはそこまで刺さらないかもしれないが、社会人向けYouTuberとして彼に勝てる才能の持ち主はこの世にいないのではないか、とすら思う。

 とはいえ、現実的に考えると、島田さんがYouTuberになったり、テレビに復帰したりすることはないだろう。本人も「芸能界に一切未練はない」と語っている。彼は芸能界の頂点に近いポジションにいながら、そこに安住していないようなところがあった。

 多忙な中でも休みを確保して、大好きな沖縄に行ったり、飲食業や不動産業などのビジネスを展開したりしていた。笑い一筋、テレビ一筋の明石家さんまのような芸人と違って、紳助は興味の対象が多い人間だった。テレビの世界で上り詰めたものの、その地位を守ることにはそれほどこだわりがなかったのだ。

 引退後、島田さんは何度か週刊誌の取材を受けていた。リタイア後の彼は肩の荷が下りたように穏やかな表情を浮かべていたという。公開された動画でもその様子がうかがえた。

 島田さんは長年、芸能人として走り続けてきて、普通の人の感覚を知らなかった。例えば、引退後に感動したのが「割り勘のフェアさ」だった。割り勘という約束で仲間たちとの飲み会を行ったところ、自分よりも若い人が「明日早いんで」と先に帰っていった。芸能界では後輩が先輩より先に帰るというのはありえないことだった。だが、割り勘で自分の勘定を自分で支払っている以上、いつ帰るかも自由だったのだ。

「同時に気づきました。芸能界におった頃は、飲んでても、みな笑てるから楽しんでるんやと思い込んでましたけど、僕が払うから帰れんかったんやろな、と。なかには眠いなあ、帰りたいなあと思ってた奴もおったんでしょうね」(『週刊文春』2017年11月2日号より)

 現在の島田さんは、年齢や社会的な地位と関係なく、仲間とつるんで酒を飲み、遊び回り、自由を謳歌している。「テレビの帝王」が現役時代には決してたどり着けなかった世界がそこにはあった。「素敵やん」が口癖だった彼は、この上なく素敵なセカンドライフを満喫しているのだ。(ラリー遠田)

著者プロフィールを見る
ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

ラリー遠田の記事一覧はこちら