会見で記者の質問に答えるゴーン氏(C)朝日新聞社
会見で記者の質問に答えるゴーン氏(C)朝日新聞社

 令和最初の年越しを迎えようとしていた2019年の大晦日の夜に、日本中を震撼させるニュースが飛び込んできた。日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン氏が、保釈中であるにもかかわらず密かに出国してレバノンに逃亡していたのだ。前代未聞の逃亡劇は年末年始の話題を独占して、現在も事態は進行中である。

 1月8日、ゴーン氏はレバノンで記者会見を開き、自らの主張を語った。世界中のメディアが詰めかける中で、日本のメディアは選別され、わずか3社しか会場に入ることを許されなかったという。テレビ局の中では唯一テレビ東京だけが入ることができた。

 テレビ東京では緊急特番でゴーン氏の会見の模様を生中継した。これには多くの視聴者が驚いた。テレ東と言えば、民放の中で最も規模が小さく、大きいニュースに対する反応の鈍い局として知られている。何しろネット局が少なく予算も少ないため、事件取材などではどうしても他局に遅れを取ってしまう。そのため、大規模な災害や事故などで他局が横並びで特番を組んでいるときにも、テレ東だけは独自路線で普段通りにアニメを放送していたりする。そんなテレビ東京が、他局を出し抜いてまさかの独占生中継を果たしたのだ。

 ゴーン氏側がなぜ数あるテレビ局の中からテレビ東京だけに取材を許可したのかはよく分かっていない。一説によると、テレビ東京では『ワールドビジネスサテライト』などの経済番組があり、そこでゴーン氏とつながりがあったからではないかという。真相は明らかになっていないが、万年最下位のイメージがあるテレビ東京にはそのような得意分野があるというのも事実だ。

 個人的には、ここでなぜかゴーン氏に認められてしまったということ自体が、結果として他局と足並みが揃っていない感じがして、それはそれでテレ東らしいな、と思う。テレ東はもともとそのような我が道を行くという雰囲気のある局だった。弱いものを応援したくなる「判官びいき」の心理から、ネット上などではむしろ愛されていたりするのだ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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