5人の命か? 1人の命か? 哲学的思考で見えてくる「自動運転車」の本当のリスク

「AIの発展によって、人間の失業者が大量に生み出されるのは正当か」「『遺伝子組み換え』によって、優秀な子どもをつくってはいけないのか」「世界的に人口が増加するなか、一国の人口減少は憂慮すべきことなのか」――。世界が直面する難題に、「哲学」を使って挑んでいく『世界を知るための哲学的思考実験』(朝日新聞出版)。思考実験とはいったい何なのか、なぜ世界を知るうえで必要なのか。本書の著者で哲学者の岡本裕一朗氏が実例をあげて、その一端を紹介する。

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 東京オリンピックを目前に控え、市販の自動運転車が公道を走る日も近づいている。しかし、技術的な進化はもちろんだが、社会的な制度もまだ整備されてはいないように見える。

 もちろん、いずれも完璧にできてからスタートする必要はなく、そのつどプラグマティックに対応すればいいのかもしれない。それでも、将来起こりうる可能性は、想定しておかなくてはならない。そのとき、どんな自動運転車を買うべきだろうか? 思考実験を通して考えてみよう。

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【思考実験 家に自動運転車がやってきた!】

 太郎は今まで自分で車を運転し、家族の送迎も任されていた。しかし太郎が不在の場合は、他に運転できる人がおらず、家族から不満がでていた。そこで、自分が不在でも、家族を乗せて安全に送り迎えできるように、太郎は完全自動運転車を買うことにした。

 A社は技術に定評があり、安全性をうたっていたので、その会社の車を買おうと考えていた。ところが、最近B社も自動運転車を発売し、「乗員ファースト!」を大々的に宣伝していた。

 少し気になって、B社に尋ねたら、担当者から次のような返事をもらった。

「要は緊急事態のとき、どのようにプログラムされているかです。たとえば、道路上に5人の歩行者が飛び出してきて、ブレーキでは間に合わないとき、進路を変えて危険を回避する場合があります。しかし、左に曲がると壁に激突し、右に曲がると対向車と衝突するとき、どうプログラムするかが問題になるでしょう。わが社のクルマは、乗員のリスクが一番少ないように設計されています!」

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これを聞いた太郎は…

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