「人間は進化したら何になるの?」
「どうして、“わたし”は“わたし”なの?」
発想豊かな子どもの疑問に大学教授が本気で答える連載「子どもの疑問に学者が本気で答えます」。子どもに聞かれて答えられなかった疑問でも、幼い頃からずっと疑問に思っていることでも、何でもぜひお寄せください。明治大学教授の石川幹人さんが、答えてくれますよ。第8回の質問は「人間はほかの動物より賢いのですか?」です。
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【Q】人間はほかの動物より賢いのですか?
【A】賢さにはいろいろな種類があり、動物によってそれぞれ賢さが違う
人間が得意な種類の賢さは「文明を築く賢さ」です。その面に限れば「ほかの動物より賢い」と言えます。
人間がわからない音や光を感知できる動物は数多くいます。たとえばコウモリは、人間には聞こえない高い音を発し、その反射音から障害物を検知して闇夜でも飛行可能です。ゾウは、人間には聞こえない低い音でコミュニケーションをとっています。東南アジアでは津波が襲ってきたとき、ゾウの集団がいち早く気づいて逃げ出すことが知られていますが、津波から生じる低い振動音を遠くから検知したものと考えられています。
さらに、モンシロチョウは人間には見えない紫外線が見え、それによってオスとメスを識別しています。一方、多くのヘビは人間には見えない赤外線を感知する器官をもっており、それを使って夜間に獲物を探しています。また、におい検知では、イヌが非常に優れていることもよく知られています。
つまり、「今ここの現実を把握する賢さ」においては、人間に匹敵する(あるいはそれ以上の)動物がたくさんいます。そこで注目されるのが「見ていない現実を想像する賢さ」です。
あなたは、学校の教室にいるとき、教室の中の「今ここの現実」についてのみ考えていますか。現に先生が授業していても、「隣の教室は何の授業をしているかな」とか、「昨日の体育の授業は楽しかったな」とか、「明日、宿題をやってこないと怒られるかな」などと、直接体験していない現在、過去、未来の現実を想像していますよね。この想像が、人間らしい賢さなのです。
進化心理学者のニコラス・ハンフリーは、人間とチンパンジーの遺伝情報は98パーセント以上同じであるにもかかわらず、なぜチンパンジーでなく人間が文明を築いたのかを考えました。彼によると、現実の把握能力が高いチンパンジーは想像力を高めずにいた一方、現実の把握能力が低い人間はそれを補うために想像力を高めたといいます。