■緑深い山あいの一戸建てをフレンドリーハウスに改修

 緑深い山々に囲まれた一角に、ビートルズのレコードをかけて客を迎え入れる家があります。小林綾子さん(60)が住む「きっとあい楽館」です。

 もともと都内の設計事務所で、要望に合わせたリフォームや店舗の設計を手掛けていました。

 そのスキルを生かし、自分で家をつくって稼ぐという道を考え、3年前、秩父に中古の一軒家を購入しました。

「最初は天井が雨漏りしているという状況でした。自分で天井裏に入り、撥水(はっすい)コーティングをして直しました」

 当初は友人を泊めてカンパを募る程度でした。その後、民泊事業などを行う秩父地域おもてなし観光公社に登録。台湾や韓国などから修学旅行生を受け入れはじめました。親戚の子どもを受け入れるのと同じで、抵抗感はなかったそうです。

 そして昨年、以前からAirbnb を利用していた姪(めい)からすすめられ、同サービスに登録しました。

「インターネットの力はすごいですね」と語る小林さんが感じているのは、インバウンド客の多さです。「指さしでも意思疎通できるよう、手作りした会話シートを部屋に置いています」

 印象に残っているのは、中国・深せんから来た3人の小学生のことです。「僕は英語が話せるよ」と豪語しますが、実際には、単語レベルでもなかなか通じません。「自分のほうが話せるじゃないかと思いました」と小林さんは笑って振り返ります。

■ゲストと共にものづくり、ほかでは得られない体験

 ゲストの目的は「東京では見られない雄大な自然を見たい」といったものから、「秩父を舞台にしたアニメが好きだから」といったものまでさまざまです。

 また小林さんならではの工夫として、ものづくり体験があります。ゲストと一緒に、部屋にかけるプレートをつくったり、季節によっては庭にある小さな畑で収穫をしたりします。

「次の人が来たら、一緒に縁側の戸の障子を張り替えたいです」と小林さん。きっとあい楽館はまだ進化の余地を残しています。(文/大西洋平、白石圭・編集部)

※週刊朝日MOOK『定年後のお金と暮らし2020』より抜粋

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大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

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