所は、さんまやビートたけしがボケを放ったときに、それを素直に褒めて面白がる、という対処をすることがある。芸人に対して、面白さを単純に認めて褒めてしまうというのは、芸人ではない彼にしかできない芸当だ。

 10月27日放送の「情熱大陸」(毎日放送・TBS系)では所ジョージに密着取材していた。そこに出ていたのは、我々がテレビを通して知っている通りの自然体の「所さん」だった。仕事が終わるとすぐに帰宅して、家族と食事を楽しむ。世田谷ベースで好きなモノ作りに没頭する。曲を作るだけでなく、最近はYouTuberとして動画編集も自ら手がけている。所はどこまでも当たり前のように自然体だった。

 所は、一人称として「私」という言葉を使う。これは男性タレントとしてはかなり珍しい。男性の用いる「私」には、淡々と自分のペースを貫く品の良さのようなものが感じられる。「情熱大陸」の中でスタッフがなぜ自分のことを私と言うのか尋ねたところ、彼はこう答えた。

「カメラに向かって『俺はね』とか言えないよ。なんでそんなえばってるの、お前、って思うじゃん。丁寧じゃないじゃん。茶の間でたぶん、すごい子供も見ているし。子供に対して『俺は』でいいけど、目上の人も見てるから『私は』が一番いいわけだよ」

 いい加減にやっているように見えて、締めるところは締める。所のテレビタレントとしてのこだわりが「私」という一人称にも表れているのだ。恐らく、彼がプロとして密かにこだわっていることはほかにもたくさんあるだろう。だが、カメラが回っているときにはそれを一切感じさせない。自分の見せ方を使い分けているわけではなく、テレビではテレビの振る舞いをすることが彼にとっては当たり前になっているのだ。

 番組の中で、所は自分のことを「テレビの人」と称していた。自分が楽しむことが他人を楽しませることとぴったり一体化している彼は、テレビの歴史が生んだ偉大なモンスターの1人であることは間違いない。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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