Youtuber「世田谷一郎」としても活躍。動画撮影・編集も自らが手掛ける(C)朝日新聞社
Youtuber「世田谷一郎」としても活躍。動画撮影・編集も自らが手掛ける(C)朝日新聞社

 弱肉強食の芸能界で、所ジョージほどの安定感を誇るタレントはほかにいないのではないだろうか。デビューから42年、大きな浮き沈みもなくテレビの第一線を走り続けている。現在のレギュラー番組は9本。紛れもない現役のテレビスターだ。

 本業はミュージシャンと言っているが、彼の作る楽曲はかなり独創的で形容しがたい魅力に満ちている。コミックソングとして万人受けするほどの爆発力もなく、名曲として語り継がれるほどの圧倒的な音楽性の高さがあるわけでもない。ただ彼は「笑っても笑わなくても別にいい」ぐらいの態度で、たまにテレビで自作の曲を披露するだけだ。

 また、所にはマニアックな趣味人というイメージもある。車、アウトドア、ゴルフ、ラジコンなど、多数の趣味を持ち、「世田谷ベース」と称される仕事場を拠点にして、趣味を生かした番組の収録もそこで行っている。

 彼には「常に肩の力が抜けている」というイメージがある。生き馬の目を抜くテレビの世界で勝ち残ってきた歴戦の勇士という印象はまるでない。なぜ彼だけがずっと頂点に立ち続けられるのだろうか。

 所のテレビタレントとしての最大の特徴は、乗りたいときだけ乗る、はしゃぎたいときだけはしゃぐ、という徹底した割り切りだ。これは簡単そうに見えてなかなかできることではない。バラエティの世界では、出演者全員が我先にいいコメントをしようと競い合っている。

 だが、所はそこで決して焦らないし、何となく雰囲気に流されたりもしない。自分のアンテナに引っかかったものだけを受け入れて、自分なりの視点でコメントする。つまり、楽しそうにする技術ではなく、自分なりの楽しみ方を見つける技術を持っているのだ。

 これは、何にでも乗っかり、誰とでも絡み、全てをネタにしようとする明石家さんまのような芸風とは正反対のスタイルである。所とさんまが互いの力を認め合い、一目置いているのはそのためだ。さんまはその圧倒的な話術でどんな状況でも楽しそうに振る舞うことで、そこに自らの手で「楽しさ」を生み出してしまう。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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