ヤクルト時代の大松尚逸 (c)朝日新聞社
ヤクルト時代の大松尚逸 (c)朝日新聞社

「春は別れの季節」といわれるが、プロ野球において別れの季節はシーズンが終了する秋だ。この秋も福浦和也(ロッテ)、館山昌平(ヤクルト)といった一時代を築いた選手たちが華やかなセレモニーとともに現役生活に別れを告げ、同じく今季限りで引退する阿部慎之助(巨人)も、来るクライマックスシリーズを前に行われた引退セレモニーでファンに感謝の言葉を述べた。

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 その一方でNPBを離れ、静かにバットを置いた選手もいる。ロッテ、ヤクルトで14年間にわたって活躍し、今シーズンはルートインBCリーグの福井ミラクルエレファンツでプレーした大松尚逸(37歳)だ。

「やり尽くしたっていうのが一番ですね。こういうケガをしたっていうのもそうですけど、今年1年に関しては独立リーグっていうやったことのない場所で若い選手と一緒にプレーできて、ホントにいつ終わってもいいような覚悟でずっとやってましたから」

 9月初旬に手術を受けたばかりで、大柄な体を両脇の松葉杖で支えながら現れた大松は、以前と変わらぬ柔和な笑顔で語り出した。今年は福井で21試合に出場し、打率.226、3本塁打。引退の直接の原因は、8月17日の試合で左膝半月板を断裂したことにあった。

「僕の中でね、こんだけやってもケガしちゃうんやったらっていうところを素直にね……。これ以上やっても、身体がこんなんだったらもうキツいなっていうところが、正直ありました」

 ロッテ時代は2008年に自己最多の24本塁打でオールスターにも選ばれ、通算6本の満塁本塁打、5本のサヨナラ打(本塁打、犠飛を含む)と勝負強さを発揮した。だが16年に右アキレス腱断裂の重傷を負い、この年に最初の戦力通告。翌17年はヤクルトにテスト入団して、プロ野球記録に並ぶシーズン2本の代打サヨナラ本塁打を放つも、昨年は一度も一軍に呼ばれることなく2度目の戦力外通告を受けた。

 当時36歳。まだ、現役をあきらめられなかった。12球団合同トライアウトは受けず、NPBの球団から声がかかるのを待ったが吉報は届かず、最初は海を渡ってアメリカの独立リーグでプレーするつもりだったという。

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米独立リーグでプレーのつもりだったが…