新たな問題も発生している。日本政府は、日本側の金額ベースの関税撤廃率が84%にのぼったと説明している。ところが、自動車と自動車部品が関税撤廃から除外されたことで、どう計算しても70%未満にしかならない。これほど低い水準での貿易協定は異例で、専門家からは「90%程度の関税撤廃を求めているWTO協定に違反するのでは」との指摘も出ている。

 トランプ大統領は、超大国としての力を脅しに使って、世界の国々に譲歩を迫ってきた。それは、お隣の韓国も同じ経験をしている。

 韓国は、外国から食料を大量に輸入し、自動車などの工業製品を輸出する経済で、日本と同じよう貿易交渉では農業問題が持ち上がる。その韓国は、米国との自由貿易協定(FTA)を2012年に発効させた。米国から韓国向けの牛肉や豚肉の関税は発効から10~15年で撤廃されることになったが、韓国から米国への輸出では自動車では発効5年後の関税撤廃を勝ち取った。トランプ政権になってからの再交渉では自動車の関税が問題となったが、トラックの関税25%が41年まで延期されたものの、「撤廃」は変わらなかった。

 日本政府は、今回の交渉で米国が求めていたコメの追加輸入枠が回避できたことをアピールしている。ただ、米韓FTAでもコメは貿易交渉から除外されている。鈴木教授は「米国のコメの主産地であるカリフォルニア州は、トランプ氏が大統領選で勝てる州ではないので、関心外だった」と分析する。

 日本が“譲歩”したのはこれだけではない。合意した内容以外にも、米国産の余剰トウモロコシを275万トン購入することを表明している。菅義偉官房長官は、「ガの幼虫がトウモロコシを食い荒らす被害が全国的に拡大し、供給が不足する可能性がある」と緊急輸入の必要性を説明したが、農水省は「現状で営農活動に影響は出ていない」と被害が広がっていないと説明している。輸入しても行き場のないトウモロコシをどうするのか。その説明もなされていない。

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求められる国会での説明