そして、今年8月の滝川クリステルさんとの婚約発表は、事前告知しなくても各社の報道陣が集まっている首相官邸のエントランスを巧みに使い、祝賀報道を広げていった。

 政治記者を中心に、「昔の政治家は懐が深かった」と懐かしむ声は多い。確かにそうだったかもしれない。筆者も「参院のドン」と呼ばれた青木幹雄・元自民党参院会長の番記者をしていたときのことを思い出す。

「(青木氏は)身内へ受け継がせる環境が整うまで、漁協組合長から一代でつかみ取った政治家という『家業』を簡単に手放すわけにはいかないのだ」

 参院選を前に、そうした忖度なしの記事を載せた当日でも、青木氏は「どうぞ、お茶でも飲んでいきなさい」と迎え入れてくれた。しかし、こうした関係性は、メディアが情報の出口を独占していた時代の遺物である。そうしたノスタルジーに逃げ込まず、新たなモデルを創らなければならない。

 この数年間で急速に変質した政治とメディアの関係は、安倍晋三氏が首相の座を降りたとしても変わらない。むしろ、菅義偉氏や小泉進次郎氏、または外相時代の記者会見で不都合な質問に「次の質問どうぞ」と無視し続けた河野太郎防衛相のように、「ポスト安倍」の時代に、よりシビアな状況に陥っていくだろう。

 拙著『報道事変』で描いた危機の主眼はそこにある。だからこそ、従来型の権力との向き合い方を見直し、新たな時代を切り拓くメディアと市民の連帯へと踏み出していかなければならないのである。(新聞労連委員長・南彰)