西本:初マラソンで勝って代表決定はやめようということですね。

河野:若い選手にとってはゲームと一緒で、ステージをクリアすることと親近感があったようです。MGCに行きたい、クリアしたいという気持ちが出てきたようです。これは結果的な話ですが。

西本:今の設楽(したら)選手を見ているとそんな感じがしますね。

河野:この仕掛けは大きな意味では、経験値を高めることになります。失敗も成功も経験値として残ります。ただしMGCは、ものすごくプレッシャーのかかる試合にしないと、オリンピックでの緊張感に耐えうる選手は出てこないだろうという考えも出てきました。オリンピックで戦うのに必要なものを逆算していったら、最終的にこういう形になったんです。

西本:経験値が上がって、アイドルが生まれるオーディションのようですね。

早野:現場の外にいる僕なりに、違う角度からメダリストが出ない理由を考えると、メンタルだけだと思っていました。東京マラソンで日本記録が出たときに、記者会見で「このレースがここに至った理由がわかりますか」と問いました。その前年の大会で設楽悠太と井上大仁(いのうえ・ひろと)が競り合って、恐れもせず世界に付いて行き、日本人もいけるんじゃないかなという雰囲気を作った。日本記録につながる助走が17大会で始まったわけですよ。(17大会後)設楽君に「なんであんなに前半から攻めてたの?」と聞いたら、「1億円が欲しかったんです」と言ったんです。びっくりしましたよ。翌年、彼は1億円の褒賞金を手にしました。環境が整ったら日本人もこれだけできるんですよ。

■MGC後のファイナルチャレンジで、男女残り1枠が決定へ

西本:代表選考で、もめるたびに「アメリカは一発選考だから、あれがいいのではないか」という意見はありました。MGCは育成も含めた部分がポイントだったんですね。でも一度で3人が決まるようにはしなかったんですね。

早野:代表選手が内定してしまうと周りの選手も気持ちがそがれる。強化の人たちに対して「(MGCからオリンピックまでの)10カ月間をどうマネジメントするのか?」と聞いた覚えがあります。19年9月で選ばれるのが2人だけだったら、残りの選手は足が潰れてでも頑張るでしょう。そして2時間5分もしくは4分50秒の記録が生まれてきたら、これこそレガシーではないでしょうか。もう一枠あれば20年まで盛り上がりを維持できます。監督さんも含めて、最後まで、休ませちゃダメ。

河野:もう一つ別の方法があったほうがより可能性は広がります。ファイナルチャレンジは「スピード」をキーワードにしました。だからどの大会も派遣設定記録を男子2時間5分49秒、女子2時間22分22秒というMGCシリーズ最高タイムからマイナス1秒にしました。そうなると全レースがそこをターゲットにした準備と展開になって、選手の潜在能力を最大限に引き出すための仕掛けになります。

※『マラソングランドチャンピオンシップGUIDE』より抜粋