リフィル処方箋と似た制度に分割調剤というものがあります。これは薬を長期処方された患者さんで家での保管が難しいなどの方を対象として、最大3回にわけて薬剤師が調剤できる仕組みです。

 分割調剤はリフィル処方箋に近い概念の制度ですが、現在0.1%未満しか使用されていません。リフィル処方箋を活用することで、健保連は年間約362億円の医療費削減を見込んでいます。

【4】 調剤報酬のあり方についての検討

 薬局で薬を受け取る際、調剤基本料という項目があります。これは薬局の立地や処方箋の受け付け回数で異なるものです。具体的には、町中にある個人経営の薬局では調剤基本料1、大きな病院の前などにあるチェーン店では調剤基料本2もしくは3。大学病院の中にある薬局では、特別調剤基本料となり、それぞれ点数が41点、25点、(20点、15点)、10点となっています。つまり、町中の個人経営の小さな薬局の点数を上げ、かかりつけ薬局として機能してほしいという政策です。

 しかし現実には、大きな病院の近くにある薬局で調剤基本料1を算定していたとのことでした。

 かかりつけ医と同じように、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師の普及が望まれていますが、複数の病院を利用した患者さんのうち、かかりつけ薬局をもっている患者さんは4.5%とのこと。健保連は調剤報酬の体制を改善するように提言しています。

【5】花粉症治療薬の保険適用範囲についての検討

 そして、五つ目の提言がニュースで大きく取り上げられた「花粉症治療薬の保険適用外」です。

 花粉症の薬は病院の処方箋がなくとも、薬局で購入することができます。いわゆるスイッチOTCと呼ばれるものです。

 OTCはOver The Counterの略。カウンター越しに販売者のアドバイスを受け、医者の処方箋がなくとも買える医薬品です。スイッチOTCとは医薬品で使われていた成分がOTCに変わったものです。今回の花粉症に関係したもので言うと、アレジオン、アレグラ、エバステルなどが該当します。つまり、同じ成分の薬を医療機関で処方されると、患者さんの負担は3割ですみますが、処方箋なく薬局で購入すると全額負担となります。

 これらの薬剤を保険適用外とすると、医療機関での処方も患者の全額負担となり、その結果約600億円の医療費削減となるようです。

 花粉症は日本人の多くが罹患している疾患であり、この提言は国民の負担増につながることから、多くの反対の声があがりました。

 また、国が花粉症の治療を健康保険を通してサポートすることは国益につながるのではないかという意見もあります。花粉症や鼻炎は仕事の生産性を下げる報告(J Allergy Clin Immunol Pract. 2018 Jul - Aug;6(4):1274-1286.)や、疾患による患者さんの損失は年間25万円以上との報告があるからです(Allergy. 2017 Jun;72(6):959-966.)。

○まとめ

 花粉症治療薬の保険適用外だけがニュースで注目されましたが、健保連は五つの提言をしていることを紹介しました。それぞれの提言は負担増(もしくは収入源)を求める相手が異なることがわかります。

 抗アレルギー薬が保険適用外になると、皮膚科医の私も困る状況が訪れそうです。例えば、他の病気で入院中の患者さんに皮膚病が出現したとき、抗アレルギー薬が効くとわかっていても入院中は処方できないことになります。

「申し訳ないですが、薬局で抗アレルギー薬を買ってきてください」とは言えません。

 国の財源が限られている中で、国民だけが負担増にならないよう2020年度の診療報酬改定を注目しておく必要があります。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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