他にも俳優がゆえの制限というと、「髪」。安易に色を染めたり、パーマを掛けたりできないのはもちろんのこと、撮影中に散髪に行きたくなっても、相当に気を遣い、タイミングを計らなければ、作品の中で、髪の長さが繋がらなくなります。特にもともとの髪が短い僕なんかは、ちょっと散髪しただけですぐバレちゃう。嗚呼、ハワイ。嗚呼、全裸。もういい。

 他にも、役によって「無精髭」を生やそうものなら、その長さにも気を払わなければいけない。まあ、しかし、そういった諸々で制限されることが嫌いではない僕は、そこそこに俳優という職が合ってるかもしれないです。

 このコラムの配信される日、9/1、舞台の本番が幕を開けます。三谷幸喜さん作・演出の「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」。僕はシャーロックの相棒、ワトスンを演じます。僕は俳優という仕事は、「グルーヴ感」という意味のみにおいては、スポーツや音楽に、ちょっと歯が立たないと思っています。起死回生のサヨナラ逆転満塁ホームランでガッツポーズ、ライブで大観衆と一体になりアンコールに応える。しかし演劇は(もちろん演劇にも色々あって、それは素晴らしいことだと思う)、たとえば台詞という「制限」があって、その中でのおもてなしです。

 しかし、演劇にはそれゆえの、制限があるからこそ「生まれる」バリューや醍醐味があると思います。制限の中でのおもてなし。決まりの中での自由。縛りの中でのグルーヴ感。東京の他、大阪、福岡にもお邪魔します。劇場で心よりお待ち申し上げます。(文/佐藤二朗)

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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