「まずアイスショー用に作っていたので、ジャンプもかなり難易度が低いもので作られていて、その分表現に力を入れやすかった。それで一年間やってきたからこそ、試合用のプログラムにした時に、やはりよりジャンプが難しい。だからといって、絶対にアイスショーでやっていた時よりペースを落としたくない。みなさんがアイスショーで見ているからこそ、そのプログラムに自分は負けたくないと思っているので、どれだけ難しいジャンプが入っても『やっぱり試合でやるのは難しいね』と言われないようにしていきたい」

 宇野の言葉からは、強い意志を持ってこのプログラムを選んだことがうかがわれた。

「このプログラムが激しいからといって、その分点数が上がるとは僕も考えていないですし……でも僕が、点数にならない部分でも、そこをやりたいと強く思ったので。正直、試合ですし競技なので、点数を求めなければいけないところはあるんですけれども、今季僕は“点数よりも、まだやってこなかった自分のスケートを見つけたい”ということで、こういうプログラムにしました」

 宇野は、初めて結果を求めると公言して臨んだ昨季の世界選手権で納得のいく演技ができず、失意に沈んだ。だが、もともと宇野は表現に強いこだわりを持つスケーターであり、それが本来の宇野の魅力だともいえる。未知の自分を見せることに専念する今季の宇野には、追い求めるのを止めた「点数」が自然についてくるのかもしれない。(文・沢田聡子)

●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」