しかし、捕手の水上桂は、何の躊躇もなく二塁へ投げた。

 遊撃の河野が取って、一塁走者を追い込んでいく。一塁方向へ戻っていく。そのとき、一塁手はベースから数歩離れたところの走路にいて、返球を待つ。捕って、相手との距離を詰める。そうやって走者を追い込んで、確実にアウトにする。

 その間に、三塁走者が走り出すのだ。そして、それを横目で見ながら、三塁走者が走ったら本塁へ投げる。ただ、高校生レベルだと、そうした瞬時の判断と、とっさのプレーが重なると、どうしてもミスが生じやすい。そこが攻撃側の狙いでもある。

 しかし、明石商はその走り出すスキを与えなかった。

 一塁手の岡田光は一塁走者が動くとともに、その後ろを、ボールを持たないまま追いかけていたのだ。だから、河野の送球を受けると、即座にタッチ。塁間で、走者が左右に動いて逃げ回る時間を与えないまま、アウトにした。

「あのプレーは、ホントによかったです。あれができて、うれしかったです」

 履正社との準決勝で敗れた後、岡田にあのプレーを改めて振り返ってもらうと、この答えが返ってきた。勝つために、何をすべきか。その1つ1つのプレーの意図を、各人がしっかりと理解しているからこそ、明石商は1つのプレーで、全員が瞬時に動けるのだ。

 派手さは、全くない。しかし、古い言葉で表現すれば、その「一糸乱れぬ」プレーに目の肥えた高校野球ファンはうならされるのだ。

 明石商は兵庫県全県域から推薦入学が可能な公立校とはいえ、私学のように優秀な選手を他府県から引っ張ってくるのにはおのずと限界がある。そんな中で、春夏連続の甲子園で、いずれもベスト4進出。今年も、最速151キロをマークしたエース・中森俊介、センバツ準々決勝の智弁和歌山戦で先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打、今大会でも準決勝の履正社戦で先頭打者アーチを放った1番打者の来田涼斗はいずれも2年生。来年こそ、甲子園で「頂点」を目指せるだけの戦力が残っている。

 その「メンバー構成」の点でも、明石商らしい特色が光っている。

次のページ
未来の高校野球でも重要になる“準備力”