清水はバットのヘッドを返さず、ハーフスイングのようにバットを投げ出し、一塁側へ打球を跳ねさせた。力ない、ボテボテの、平凡な一塁ゴロ。しかし、打球が弱い分、一塁手のミットに収まるまでの間に、三走の窪田は本塁を陥れていた。

 ヒット、バント、盗塁、そして「凡打」で同点に追いついたのだ。

「これを、みんなでやってきたことなんで」と清水は言う。1点をもぎとるために、試合の中で何度も使われるような作戦ではない。それでも、練習でその状況を考え、準備してきた。それを、甲子園という舞台で、見事に結果に結び付けたのだ。

 延長10回、サヨナラ勝利に結びつけたラストプレーも、1死満塁からのスクイズ。満塁だと、タッチプレーではなく、フォースプレーになる。だから、より精巧なスクイズをやらないといけない。打者の転がすポイント、そして、三塁走者のスタート。それらがきちんとかみ合わなければ、チャンスは一瞬にしてフイになる。

「練習を1つ1つ積み重ねてきた。部員111人がひとつになって、ホントにいろんなことをやって、力をもらった勝利ですわ」と狭間監督。凡打で同点に続き、スクイズでサヨナラ勝利。「普段から、全員がバントを決める。その練習をしてきたんで」と、スクイズを決めた河野光輝が言う。誰がヒーローというのでもない。豊富な練習量に裏打ちされた、何とも地味なプレーを積み重ね、明石商というチームは勝ち進んでいくのだ。

その「準備力」の高さは、準々決勝の八戸学院光星戦でも光った。

 今度は守備でのワンシーンだ。1点リードの8回、2死一、三塁のピンチ。ここで、八戸学院光星はダブルスチールを仕掛けてきた。一塁走者がスタート。捕手が二塁送球。一塁走者は塁間で止まって挟まれる。その挟殺プレーのスキをついて、三塁走者がスタートするというのが、このプレーの“肝”になる。

 三塁走者の動きを見ながら、捕手は二塁へ投げないという選択肢もある。終盤、同点にされたくない状況だと、投げないという安全策が無難だったりする。つまり、二、三塁にされても打者集中で打ち取る。そっちを優先するのだ。

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一糸乱れぬ連携も準備の成果