曲が始まり、サビが流れると、「ローマーンース!」のかけ声が会場全体に響いた。次の瞬間、体を左右に思い切り反らしながら腕を天井に向かって突き上げる。一心不乱に踊り続ける彼女たちの額は汗でびっしょり。その様子を後ろから見ていた記者は、異様な空気に終始圧倒されていた。
何かが憑依したかのように踊り続けているのは、「セーラームーン」のコスプレやピンクのウィッグをかぶった女子高生姿の女性たち。彼女たちの視線の先には、ステージ上で美声を披露するアイドルの姿……ではなく、ポロシャツを着たごく普通の成人男性だった。
6月1日にオープンした東京・池袋のアニソンカフェ「すた~ず@IKEBUKURO」は、カラオケ中にコスプレ姿のスタッフらが「ヲタ芸」で盛り上げてくれるカラオケバーだ。2015年に1号店をオープンして以降、アニメの世界に入り込めるとして人気を集めている。池袋は6店舗目の出店だ。そんなうわさを耳にした体力自慢の元高校球児の記者(25)が、「ヲタ芸」研修を体験することになった。
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帰宅ラッシュの人混みをかき分けて池袋駅から歩くこと5分。飲食店や雑居ビルなどが立ち並ぶ繁華街に「すた~ず@IKEBUKURO」はあった。店に入り目に飛び込んできたのは、清潔感あふれるシンプルな内装。店員やコスプレ姿の女性たちが開店に向け準備を進めていた。コスプレ姿の人たちを除けば、一見してここがサブカル系専門の店だとは思えない。
とまどいながらも、従業員にあいさつを済ませてスーツ姿から動きやすい服装に着替えると、さっそく店長の澤田健人さんが店のシステムについて教えてくれた。
店内は一般的なカラオケ店のような個室式ではなく、スナックのイメージに近い。カウンターに10人、テーブル席に20人ほどが座れる広さだ。カラオケ中はコスプレ姿のスタッフらが盛り上げてくれるので、「おひとり様」でも孤立する心配はないという。