※写真はイメージです (c)朝日新聞社
※写真はイメージです (c)朝日新聞社

「撮り鉄」のマナー違反に関するニュースは、とかくインターネット上で注目を集めやすい。このAERA.dotでもアサヒカメラが特集した記事の一部を配信するたびに多くのアクセスがあり、「撮り鉄」の悪質な行為を非難するコメントが数多く書き込まれた。

 例えば、「柵を乗り越えて線路近くに侵入する」「踏切内に三脚を立てる」「邪魔な木の枝を無断で伐採する」「ラストランを撮影するためにホーム上に大勢の人があふれる」「他の撮影者や乗客に対して『邪魔だ!』と怒鳴り散らす」など、さまざまな事例が報じられてきた。これらは鉄道会社や一般の乗降客に迷惑がかかるのはもちろんのこと、不法侵入、器物損壊、鉄道営業法違反、威力業務妨害というように、立派な違法行為になることもある。

 誰もが「少しでもいい写真を撮りたい」と思うだろうが、いくらいい写真のためとはいえ、していいことと悪いことがある。また、自分では気づかないうちにルールやマナー、時には法律を犯してしまうことだってあるかもしれない。自分がまさかの一線を超えないために一番大切なのは、正しい知識を身につけ、状況に応じて自分で判断できるようになることではないだろうか。アサヒカメラの人気シリーズ「写真好きのための法律&マナー」は、そんな思いから始まった特集だった。

 約1年に及ぶ連載をまとめたものが、2018年3月に発売された『写真好きのための法律&マナー(アサヒオリジナル)』(朝日新聞出版)だ。このムックには、「撮り鉄」のマナー問題を取り上げた特集も収録されている。その中で、鉄道写真を取り続けている写真家の小竹直人さんは、ラストランや珍しい列車が走る時の“イベント撮影”のために集まる大勢の「撮り鉄」に対してこう苦言を呈している。

「ああいう現場での撮影は、誰よりも早く行って場所取りしたからといっていい写真が撮れるものでもなく、同じような撮影方法になりがちです。それは『思考停止』と同じこと」

 そもそも大勢の撮影者が集まる場で、自分だけの「いい写真」を撮影しようとしても、土台無理がある。人と異なる写真を求めて迫力ある構図を狙うために、線路内や私有地に侵入して撮影すれば、当然のことながら違法行為となる。ルールやマナー無視で自分さえ「いい写真」を撮れればいいというのではなく、自分なりに工夫を凝らして表現の場を広げる方がよほど前向きであり、写真愛好家としての腕の見せどころではないか、と小竹さんは指摘する。(文・吉川明子)