そこで、一か八かの素手キャッチを試みたが、失敗に終わり、悲しいかな、ボールは右前に抜けていった。この間に二塁走者・村松有人が生還し、1点を先行されてしまう。

 結果的にこの1点がアダとなり、西武は2対3の惜敗。ダイエーにFA移籍した石毛宏典の後釜として6月までサードを守っていた鈴木は、右肩脱臼から戦列復帰した清原和博がDHに回って以来、代わりにファーストを守っていたため、不慣れなポジションが災いしたとも言えるが、伊原春樹守備走塁コーチは「一塁は本職じゃない?じゃあ、三塁は本職か?涙も出ない」とバッサリ。

 それでは、なぜミットがグラウンドに落ちていたのか?実は、鈴木が体勢を崩した際に、うっかり自分の足で踏んづけて脱げてしまったというのが真相……。「これがホントの“ミットもない”話」というファンのため息が聞こえてくるような落ちだった。

 鈴木のためにフォローすると、同年はこの失敗にめげることなく、シーズン終了までファーストを守りつづけ、プロ8年目で初めて規定打席に到達している。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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