元ヤクルトの荒木大輔 (c)朝日新聞社
元ヤクルトの荒木大輔 (c)朝日新聞社

 2019年シーズンが開幕して1カ月以上が過ぎ、毎日贔屓チームの勝敗をチェックする今日この頃だが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「行方はボールに聞いてくれ編」だ。

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 ピッチャーの足元を襲った強烈なライナーがなぜかサードフライに打ち取られるという思わずビックリ仰天の珍プレーが見られたのが、1985年8月31日の巨人vsヤクルト(神宮)。

 2点を追う巨人は5回表、2死ながら一、二塁のチャンス。ここで6番・吉村禎章が痛烈なピッチャーライナーを放ち、打球はプロ3年目、21歳の若手右腕・荒木大輔の足元を襲う。普通なら、二遊間を抜けるクリーンヒットで、1点追加である。

 ところが、打球を避けようとした荒木が無意識のうちに右足を上げたところ、よりによってボールはその右足に当たり、ポーンと高く弾んで三塁方向へ。サード・角富士夫が手を上げてフライをキャッチすると、大里晴信三塁塁審が「アウト!」をコール。公認野球規則2.15「野手がボールを地面に触れる前に捕らえれば、正規の捕球となる。その間ジャッグルしたり、あるいは他の野手に触れることがあっても差し支えない」により、ピッチャー直撃のサードフライが記録され、まさかのスリーアウトチェンジとなった。

 過去の同様の例では、65年5月11日の巨人vs広島(広島)で、4回に滝安治のピッチャーライナーが安仁屋宗八の右膝の皿の部分を直撃したあと、本塁方向に跳ね返り、捕手・久保祥次がキャッチ。ピッチャー直撃のキャッチャーフライという珍事もあった。20年の月日を隔てて、どちらも巨人の打者が記録しているという事実は、偶然にしても興味深い。

 右足甲に打球を受けた荒木は、患部が赤く腫れ上がったにもかかわらず、「これくらい何ともありません」と気丈なコメント。足の痛みよりも、8回に逆転を許し、負け投手になったことが悔しかったようで、「今度は絶対に完投で勝つんだ」と雪辱を誓った。

 それから10日後、9月10日の広島戦(神宮)で北別府学に3対2で投げ勝ち、見事完投勝利を挙げた。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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大悪投が一転好返球に早変わり