エキシビションでも魅力ある演技を披露した羽生結弦 (c)朝日新聞社
エキシビションでも魅力ある演技を披露した羽生結弦 (c)朝日新聞社

 競技会後のエキシビションでは、リラックスした選手達の演技を堪能できる。スケーターがルールに縛られずに滑ることで、新たな魅力を見せてくれることも多い。今季でいえば、シニア1年目にして哀愁漂う旋律を表現できる力を見せた紀平梨花の「Faded」、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」への愛に満ちた田中刑事の切れのいい滑りが印象に残る。

 また、エキシビションには地元の有望な若いスケーターが登場するため、金の卵を見つける楽しみもある。2014年・さいたまスーパーアリーナで開催された世界選手権のエキシビションで最初に登場したのは、当時13歳の全日本ノービス選手権女王・樋口新葉だった。公式プログラムの誌面にも“スターの卵”として登場し「会場が大きいほど、自分も楽しく演技ができそう」と語っていた樋口だが、突然曲が止まるアクシデントに見舞われる。しかし樋口は観客の手拍子に合わせて滑り切り、演技を終えて物怖じしない笑顔で手を振ったのだ。未来の世界選手権銀メダリストの、強心臓を感じさせるシーンだった。

 スケーターが、エキシビションナンバーで追悼の思いを伝えることもある。エリザベート・トゥルシンバエワ(カザフスタン)は、今年3月の世界選手権(埼玉)でシニア女子初の4回転ジャンプを決め、銀メダルを獲得した。彼女がエキシビションで滑った「アダージョ」は、昨年強盗に襲われ不慮の死を遂げた同国の英雄、デニス・テンに捧げられたナンバーだ。さいたまスーパーアリーナの観客は、テンが背負ってきたカザフスタンのフィギュアスケートが、19歳のトゥルシンバエワによって受け継がれていくことを感じただろう。

 エキシビションは、チャリティ精神の表現手段でもある。東日本大震災から5年が経とうとする2016年1月、岩手県の盛岡市アイスアリーナ(現・盛岡市総合アリーナ)で行われたNHK杯フィギュアスペシャルエキシビションには、羽生結弦、当時現役選手だった浅田真央、荒川静香さん、エフゲニー・プルシェンコさんといった豪華な顔ぶれが揃った。自らも地元・仙台で被災し、練習拠点を失った経験を持つ羽生が披露した「天と地のレクイエム」は、思いの強さが伝わるナンバーだ。静かなピアノ曲に乗せた羽生の力強いスケーティングは、苦悩や葛藤も美しい形で昇華することができる才能を感じさせた。それは、被災した方の痛みを共有できる羽生にしかできない滑りだったといえる。

次のページ
浅田真央も素晴らしい演技を披露