「成人式で長いスピーチをする長女のエデン」。3月にエルサレムで著者撮影
「成人式で長いスピーチをする長女のエデン」。3月にエルサレムで著者撮影
Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長
Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長

 長女エデンは私が京大留学中に京都市で生まれました。エルサレムの学校ではヘブライ語をはじめ、英語、アラビア語を習っています。もちろん日本語も話せますし、日本のファッション誌が大好きですね。

 彼女は3月、12歳になりました。(12歳という年齢は)ユダヤ人社会では特別な意味があります。この年が女子の成人にあたり、大々的に成人式を執り行います。男子は13歳です。と言っても日本のように自治体が主催する「成人式」のような行事ではなく、多くの人を呼んでパーティーをするのです。

 本来の目的はユダヤ教の聖典であるトーラ(聖書)を朗読することをさして、皆でお祝いをすることでした。男子の場合は「バーミツバ(Bar Mitzvah)」、女子は「バトミツバ (Bat Mitzvah)」と言われ、ユダヤ教では成人として扱われるようになります。
 
 最近は宗教上の意味よりも、集まって楽しいパーティーをする傾向が強くなっています。エデンの場合も200人の親戚や友人を招いて、食事やピエロの余興を準備しました。この2週間前には、専門の写真家に記念の撮影をお願いしましたところ、日本の女性誌のような作品に仕上がって驚きました。写真+パーティーとくれば、まるで相手のいない「結婚式」のようです。

 かつては小さな誕生日会の規模で家族や親しい友人たちでこじんまりとやっていたのですが、忙しい両親の罪滅ぼしかのように拡大していったのでしょう。
 
 イスラエルでは、なぜこんなに成人式が早いのでしょうか。12歳の少女や13歳の少年では成人式を迎えたといってももちろん酒は飲めません。車の運転も選挙、結婚もできません。法律的には何も変わらないのです。ただし、宗教的、社会的には12歳と13歳の子供は、行動に責任を伴う大人とみられる最初の機会になるのです。

 とくに13歳の少年は、ユダヤ社会の数千年の基礎となっているトーラを直接読むことを許されます。盛大な成人式の前、少年はラビ(宗教的指導者)のところに行ってトーラの勉強をします。読むことは簡単ではありません。古代ヘブライ語で書かれた手書きの教典なのですから。またトーラの勉強だけでなく、ユダヤ社会で大人になっていくことの意味も学びます。成人式では大勢の参加者の前で長いスピーチも話さなくてはなりません。
 

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Nissim Otmazgin

Nissim Otmazgin

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授。トルーマン研究所所長を経て、同大学人文学部長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年ヘブライ大学にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に贈られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。2012年、エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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