ビジネスでの交渉術の一例として、反論するときは「Yes, but法」を使いなさい、とよく言われます。「Yes, but法」とは、いったん「イエス」と相手の言い分を認めてから、反対意見を言うことで、こちらの言い分を受け入れてもらいやすくするテクニックです。

 これももちろん有効だと思いますが、私は、できるだけ「but」は使わないようにしたいと思っています。なぜなら、結局は「でも」と相手の言い分を否定することになるから。「この人ってやたら『でも』でかぶせてくるなあ……」と気づかずにネガティブな印象を与えているかもしれません。

 相手と自分の意見が異なるとき、いかに「でも」を使わず自分の考えを伝えるか。

 この悩みについて、ひとつのヒントをくださった方がいます。それは、NHKの真下貴(ましも・たかし)アナウンサーです。ある時真下さんと一緒に金曜お昼どきのゲストトーク番組『BSコンシェルジュ』を進行していたときのことです。

 真下さんは、相手の意見に対して「そうですね、でも」と返すのではなく、「そうですね、一方で」と、「一方で」という言葉を使っていたのです。

「そうですね。でも、私はこうだと思います」ではなく、
「そうですね。一方で、こういう意見もありますね」

 こう言い換えることで、かなりソフトな雰囲気になりませんか? やや書き言葉のような硬い響きがありますが、声に出してみると意外に違和感なく使えます。正面切ってNGを出す印象の「でも」は幼児でも使えるシンプルな言葉ですが、だからこそ大切にしたい会話では安易に使うのではなく、前向きな代用語を自分のボキャブラリーに加えておいてください。「加えて」、「それでは」、「そんな中」、「見方を変えると」、「だとしたら」など、状況別にハマるものが必ず見つかります。「でも」を上手に言い換えられる人とは、お互いの距離が一気に縮まり、会話にも弾みがつきます。

 ある言葉を別の言葉に置き換えることを英語で「リフレイズ(rephrase)」と言います。もっと良い言い方はないかな、より良く伝わる表現はないかなと街の中、メディアなどを、素敵なリフレイズを採集する気持ちで見回してみてくださいね。