今年2月に逝去した堺屋太一氏が遺した大作『平成三十年』が再び注目を集めている。

 本書は約20年前に生まれた近未来小説で、作中では平成30年を生きる“未来人”の世界が仔細に描写されている。

「バーチャルガバメント(仮想政府)」など時代を先回りしてしまった描写もあるが、「VR」や「ニュータウンの過疎化」といった的中要素も数多く、20年越しの「予言小説」として世に衝撃を与えている。

 日本人の出生数が2017(平成29)年に100万人を切るなど、本書では見事的中させた予言も数多く登場する。「当たった・外れた」といった観点からも楽しめるが、本書の白眉は、今の日本を漂う「時代の空気」を的確に捉えている点だ。副題の「何もしなかった日本」にあるように、改革を不得手とする日本型組織への警世の念も込められており、むしろ我々“未来人”に刺さる内容ともいえる。

 無論、堺屋の未来予知は超能力などではなく、あくまでも現実に即した「予測作業」に基づいている。巻末の「あとがき」では、その構想の裏側や執筆の意図を余すことなく開陳している。今回は特別に「あとがき」を公開する。

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■「あって欲しくない日本」を描く予測小説

「予測小説」は警世の書である。

 従ってここでは、「あって欲しくない未来」を描く。私(堺屋)にとって、平成三十年(2018年)に「最もあって欲しくない日本」は、「何もしなかった日本」だ。

 しかし、そうなる可能性は高い。この十年、「改革」「改革」といわれていながら、現実の世の中は、根本のところが変わらない。

 本編『平成三十年』では、まず、この情況が今後も続くことを想定して、十数年後の日本を現実的に描くように努めた。このため、経済統計の数値や官庁の名称なども、最もありそうな情況を予想して、丹念に書き記した。そこでの人々の暮らしや世間の雰囲気を感じ取って頂くためだ。

 従って、個々の数値や名称はさほど重要なわけではない。数字のお嫌いな方は読み飛ばして頂いても結構だ。名称がややこしいと思う方は忘れて頂きたい。まずはあなたの好みで本編を楽しんで欲しい。もちろん、経済社会に関心のある方は、「最もあり得べき予測」として読み、議論もして頂きたい。

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連載終了から書籍出版までに4年かかった理由