ただ、ここからが“伝説の新章”だった。

 2018年、松坂は中日にテスト入団。新天地で、復活をかけた。ファンは「平成の怪物」が見せた、不屈の闘志とその執念に魅せられた。2月の沖縄・北谷キャンプで、松坂グッズは飛ぶように売れた。その前年、北谷キャンプ1カ月間でのグッズ売上は約1千万円だったが、その額をなんと、1クールの5日間で達成してしまう。さらに沖縄という土地柄なのか、元メジャーリーガーの松坂大輔を見ようと、北谷球場に沖縄駐留の米兵たちが大挙して訪れるようになった。

「これが、本当のスターなんですね。初めて、松坂さんの凄さが分かりました」

 中日の広報スタッフの1人は、驚きの表情で、私にそう告げた。そして、単なるシーズン前の話題だけでは終わらなかった。6勝を挙げ、セ・リーグのカムバック賞を受賞。松坂が登板したナゴヤドームでの9試合の観客動員は、1試合平均で3万3043人。中日の今季主催試合での観客動員数の同3万231人を、1割程度上回っている。

 その一方で、同じ時代を戦ってきた「松坂世代」と称された仲間たちの多くが、ユニホームを脱いだ。横浜、巨人の主砲として活躍した村田修一、日本ハムオリックスで勝負強い打撃を見せた小谷野栄一、巨人、日本ハムでその明るいキャラクターでも注目された矢野謙次、西武、横浜で代打の切り札として渋い働きを見せ続けた後藤武敏が、2018年限りで現役から退いた。1998年夏のPL学園戦で松坂に立ち向かったPL学園の主将・平石洋介は、2019年からは東北楽天の監督に就任する。多くの同級生たちが第二の野球人生に向かう中、松坂大輔は2019年も、戦いのマウンドに立つ。

「大輔の話、誰もいやがらないでしょ?」

 平石が、指摘した通りだった。私は2018年、松坂をよく知り、親交が深く、かつて戦ったライバルたちに話を聞き、この『AERA dot.』上で、連載を続けてきた。実は取材を申し入れた関係者たちに、断られたことは一度もなかった。それどころか、誰もが喜々として、自分だけが知る「松坂大輔」を語ってくれたものだ。

 平石も、松坂論を語り出すと止まらない。

「プロに入ってからも、メジャーに行ってからも、何も変わらない。あれだけの選手になっても、変わらない。それが、松坂大輔の人間性ですよ。だから、みんな、松坂世代と言われて、うれしいんです」

 プライドが高く、個性の強いプロ野球選手たちに、そう言わしめる松坂大輔。それは誰もが、この男の人間性と、その魅力を認めているからだ。

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今でも変わらない松坂世代の“絆”