拓殖大陸上競技部部長の井上康信氏は次のように説いた。

箱根駅伝は、長い歴史の中で数々のドラマがあり、人びとに感動を与えてきた。OB、学生たちも箱根を目指し、苦しいトレーニングに耐えて今日がある。出場権をかけた予選会は本戦以上の苦しいレースとなり、母校の名誉をかけて襷を取りに行く。仮に全国大会となった場合、地区の代表となる大学は、この厳しさを体験できるか疑問が残る。OBたちは箱根を走ったことを誇りとして生活している。物故者となったOBたちがこの話を聞いたらと思うと、簡単には結論が出せない。最終的には関東学連が決めることであり、記念大会としての開催であれば考えられるのではないでしょうか」

 次は龍谷大学陸上競技部総監督の西出勝氏の話である。関西の大学としてはめずらしく反対派だ。

「関東大学駅伝としての位置づけがある限り、全国大会化は困難であると思われる。その場合は関東箱根駅伝、全国箱根駅伝をつくる必要性がある。対応策として、箱根駅伝の対となる関西大学駅伝のメジャー化を行う。もしくは、西日本大学駅伝をつくることで対応することが望ましい」

 賛成・反対どちらでもない、という立場の意見もあった。創価大駅伝部監督の瀬上雄然氏である。創価大は2015年に箱根駅伝初出場を果たし、2017年にも出場した新興校である。

「箱根駅伝を全国大会化することは、全国の学生選手に参加の門戸が開かれ希望を与えることになると思います。一方で、大学三大駅伝である全日本大学駅伝の関心をもっと高めることができれば、箱根駅伝は箱根駅伝としてのその特長を活かし、多様な競技会の中の一つとして、学生たちの喜びと成長につなげられればいいと思います」

 駅伝指導者からすれば悩ましい質問だったろう。全国大会化に賛成すると「地方大学は箱根駅伝を大学広告塔に使いたいのか」という批判を受けかねない。一方、関東の大学が反対すれば「国民的一大イベントに出場できるという既得権を守ろうとしている」と言われるかもしれない。実際、箱根駅伝強豪校からは「本大会に出場する立場上、答えにくい」という回答も多かった。こうしたなか、全国大会化の賛否について、ていねいに回答していただいた駅伝指導者のみなさまに、お礼を申し上げたい。

 もはや、箱根駅伝が関東の地方大会ではなくなっていることは、駅伝関係者は深く認識していることだろう。さらなる議論を深めてほしい。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫