■「お気に入り」だけで100件に

 しかし大学を卒業し、マーケティング会社の正社員となってから状況は一変する。

 勤務は朝9時から夜8時頃まで平日5日間。与えられる仕事は店頭で服を売るのとは全くちがった内容で、慣れるのにひと苦労した。そんな忙しい中でも友達とのSNSのつながりで生きていくためには写真映えする鮮やかな風景や物をわざわざ探してインスタグラムにアップし続けなくてはいけない。

 もちろん、自分のこだわりである服への情熱もあるから、スマホでファッションニュースをチェックするなどの努力も怠らない。

 そんな毎日を送る中、彼女は夏に着る「黒いワンピース」を欲しいと思った。しかし平日にお店に行く時間はなかなか取れない。休日は家で休息もしたいし、友人との外出もある。そこで毎日の会社の行き帰りの電車の中でSNSで人気モデルが投稿する洋服や、ファッションブランドが投稿する新作情報をチェック。またインターネットショッピングサイトで「黒/ワンピース」と情報を絞り込んで検索。こうして調べた情報の中で「ちょっとこれ良いな」と思ったものをとりあえずスマホの中に保存して、時間がある時にじっくり検討して選ぼうと考えた。

 実際に会社の行き帰りの合計1時間程度の通勤で情報を集め出すと、たくさんの情報がチェックできた。中には「お、これ素敵」と思うものにも出会ったがすぐには決めず、保存。そうするうち100以上の気になる黒いワンピースの商品情報を集められたという。

■悩んでいるうちに「買う気」が失せる

 そして、いよいよ自分が買う一着を選ぼうと収集した情報を見返したところ……彼女は混乱し始める。調べれば調べるほど同じような黒いワンピースでも価格は異なり、口コミの評価も異なる。同じ商品でも、あるサイトでは評価が「5点満点中4.5点」だったのに、別のサイトでは「3点」なんてこともザラにあるのだ。さらに先週「これ素敵」と思って保存したワンピースの値段が、いま見た時には上がっている。なんだか悔しくてこれを買う気持ちにもなれない。彼女の混乱はさらに加速する。

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結局、ワンピースは買えたのか?