年末大感謝祭、在庫一掃セール、お歳暮特集……世間は年末商戦真っ盛り。財布のひもも緩み、出費も多い時期だろう。だが、買物をするのは楽しいことばかりではない。『なぜ「それ」が買われるのか?』の執筆者で、博報堂買物研究所・上席研究員の山本泰士さんによると、いま多くの生活者が買物に疲れ、ストレスを感じているという。同書から、その実態を生々しく表す、とある女性へのインタビューを紹介しよう。

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「服が大好きなのに、なぜか買えなくなってしまいました」

 ヨウコさん(仮名・女性・25歳)は大学卒業後、2年前に関西から上京した社会人。

 家にテレビもなく、ほとんどの情報とスマホで接触するいまどきの若者だ。インスタも使いこなし、友達の近況も毎日これでチェックしている。

 彼女は言う。「私たち空気を吸うようにインスタをしているんですよ」。これは頻繁にインスタを見たり、投稿したりしているという意味だけではない。人間は空気を吸わなくては生きていけない。それと同じくらいにインスタが重要だ、という意味も含んでいる。

 そして買物をする際にも、いま何が流行っているのかインスタを使って検索。日々更新され続ける情報をチェックするのだという。そんなスマホ時代の申し子とも言える彼女に話を聞いていると「でもなんか、最近幸せでないんです」と語り始めた。「大好きだった洋服が、最近買えないんですよ」と。

 学生時代、彼女はとにかく洋服が大好きだった。奨学金をもらい大学に通いながら、懸命にアルバイトをし、節約して貯めたお金で自分の好きな洋服を買うことが何よりの喜びだった。その情熱が買われ、自分の大好きだったブランドの販売員として、学生であるにもかかわらずスカウトされたと言う。

「私、結構売り上げる販売員だったんですよ(笑)。あんまり洋服は売らないで友達みたいに会話するの。そうすると逆になぜか服が売れていくんです」

 状況を思い出し、ほくそ笑む。

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しかし、状況は一変…