――周囲の大きな音に反応してシャッターを切るコニカKANPAIなど、1980年代から90年代のカメラは凝った機能を持った機種が目につきますね。

 デジタルのコンパクトカメラは高画質、高倍率ズーム、多機能とさまざまな開発の流れが生まれました。それは今、スマホに駆逐されてしまいましたよね。写真雑誌でもそういったカメラを紹介することで生まれていた記事がなくなり、王道を進む新製品のインプレッションが中心ですよね。けれど今もアナログなフィルムカメラの楽しみは確実にあり、そうした多方面からの誌面づくりや、情報があってもいいんじゃないでしょうか。

――メーカーも開発に遊びがなくなっていますしね。

 カメラは人が使うものですが、大判カメラとか、プロ向けのデジタル一眼レフといった機種はカメラのパワーに人が使われてしまう。その対極にあるこうしたカメラたちは、本来の写真の楽しみを思い出させてくれ、迷える写真愛好家たちを隘路(あいろ)から救い出してくれます。本流、本道に疲れた人たちにとって、「癒やしカメラ」になるんじゃないでしょうか。

――現代は癒やされたい人が多いですからね。

 今、最新のカメラは高額商品で、誰もがおいそれとは購入に踏み切れません。ただ人には購買欲があって、多くのカメラ好きはフラストレーションを抱えているはずです。それが駄カメラなら数百円からと、気軽に買える。そこで「誌上駄カメラ屋さん」をオープンするのもいいんじゃないでしょうか。以前、テレビ番組の「ぶらり途中下車の旅」で地方の駄菓子屋さんに行きました。自動販売機と称したものにお金を入れると、店主が“ぐい~ん”と言いながら品物を取り出し口に置いたんです(笑)。人の温もりが感じられて、昭和なレトロ感もある。そんな空気感が出せればいいですよね。誌上駄カメラ店では、手前の陳列棚には手ごろなコンパクトカメラを並べ、後ろのショーケースにEOS Kiss などの一眼レフモデルを収めておく。ここで扱う全ては3000円以下で買えるカメラですが、ちゃんとジャンル分けをして、読者さんに駄カメラの多様性を伝えていきたい。

――新製品欄の続きに、駄カメラの紹介欄をもうけるとか。そういう遊びも楽しいですね。 

デジタル世代の読者が、「アサヒカメラ」で駄カメラというカルチャーを知る。次にはオリンパスのOM-1あたりが欲しくなり、先々には必ずデジタルカメラが欲しくなる。じっくり考えて憧れのデジタルカメラを手にする人たちより、結果、駄カメラから入った人のほうがたくさんカメラにお金を使っているかもしれない。彼らはフィルムも使ってくれるし、中古カメラ屋さん、写真雑誌、そしてカメラメーカーも潤してくれるんです。

――駄カメラの面白さを伝えれば、カメラと写真の世界にきっと健康的な循環が生まれますね!

◯石井正則
1973年、神奈川県生まれ。94年お笑いコンビ、アリtoキリギリスでデビュー。ドラマ「古畑任三郎」をきっかけに俳優としても活躍。喫茶店を2000軒以上めぐり、NPO法人自転車活用推進研究会からは7代目自転車名人に任命。会員一人のなんちゃって協会「駄カメラ写真協会」会長。

(文/市井康延)

※「アサヒカメラ」2019年1月号から抜粋