日本代表で74試合2得点という実績を残し、ドイツ・ブンデスリーガ1部のシャルケでも8シーズンプレーし、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメントなど卓越した国際経験を誇る内田篤人(鹿島)も「ブンデスやCLのレフェリーはみんなうまいし、疑問を持つことがない。僕らがどこで試合をしていても、どのレフェリーが笛を吹いていても基準がしっかりしているから。僕らの話を聞いてくれる人もいたり、コミュニケーションも結構あった。でも中東や中国みたいに荒いところもあるから、判定は難しいですよね」と話していたことがあった。

 普段、欧州でプレーしていると、その基準に慣れて、アジア基準になった時に戸惑いを覚えるケースは容易に想像できる。ただ、そこで瞬時に適応し、不安定なレフェリングに対してもナーバスになりすぎないことが肝要だ。

 実際、内田は12月5日の天皇杯準決勝・浦和レッズ戦で、指揮を執っていたオズワルド・オリヴェイラ監督と福島孝一郎主審が判定を巡って論争に発展しそうな気配を察知し、あえて2人の間に置いてあったペットボトルにスッと近寄り、その場でゆっくりと水を飲み、無言で彼らにプレッシャーをかけるという驚くべき行動を取った。かつて鹿島でJリーグ3連覇を果たした時の恩師・オリヴェイラ監督の熱くなりやすい性格を熟知する内田だからこそ、できたパフォーマンスなのだろうが、選手側がそのくらいの余裕を持てれば、アジアレベルのレフェリーだろうが、中東の笛だろうが、一切関係ない。若き森保ジャパンがそこまで老獪になれれば、本当に頼もしい限りである。

 2019年アジアカップでは、準々決勝からビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が導入されるとアジアサッカー連盟(AFC)は明らかにしている。過去の大会のようなアクシデントは起こりにくくなるだろう。しかしながら、1次リーグではVARが採用されないため、2011年カタール大会のシリア戦のようなケースも起こり得る。そのための準備を森保監督もチームスタッフも選手たちもしっかりしておいた方がいい。指揮官の言う「臨機応変な戦い」という言葉には、レフェリングへの対応も含まれていることを忘れてはいけない。(文・元川悦子)