それをはじめて体験したのは、チャルチャンのバスターミナルだった。深夜に着いたのだが、全員、身分証明書かパスポートを公安に提出するようにいわれた。そこでチェックし、登録。返却は別の窓口だった。ひとり、ひとり、名前を呼ばれて取りにいかなくてはならなかった。

 このシステムはルオチャンのバスターミナルも同じだった。そしてバスが途中で停車する街のすべてのバスターミナルで徹底されていた。

 バスがターミナルに入ると、すぐにゲートが閉まる。ターミナルの外に出ることができるのは、その街で降りる客だけだった。当然、身分証明のチェックは厳しいが。

 乗り続ける乗客はバスから降りることはできても、ターミナルから出ることができない。ちょうど昼どきに停車した街があった。ターミナル内には簡単な売店しかない。乗り続ける客がターミナルの外に並ぶ食堂に行くことを職員は許可しかなった。

 この沿線のバス旅は不自由を強いられてしまう。公安の方針だから、誰も文句はいえなかった。

 このルールを決めたのは漢民族の公安だが、実際に荷物やボディーチェックをするのは、雇われたウイグル人だった。彼らのチェックは杜撰で、エックス線チェックのモニターの前でうたた寝していたりする。それでも乗客は荷物を機械に通す。

 なにかが空まわりするバスターミナルをバスは結んでいく。

著者プロフィールを見る
下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

下川裕治の記事一覧はこちら