副作用は想像していたよりも軽かったですが、手指のしびれは、今も強く残っています。



上野:ポジティブ思考に切り替える「コツ」みたいなものはありましたか?

粕谷:日記をつけていたんですが、最後に必ず「絶対に負けない がんばる!」と書き添えていました。毎日続けているうちに、書かないと悪いことが起こるような気がしてね。逆に書いていれば大丈夫な気がしてきました。おまじないみたいなものですよね。

上野:私は副作用がすごくつらかったですね。精巣腫瘍の場合、持病のない若い患者には抗がん剤をしっかり投与して、徹底的にがんを叩く。だから、吐き気などの副作用も強く出るわけです。副作用も大変でしたが、全体を通してきつかったのは出口が見えなかったこと。そしてもう一つはうつになったことです。それまではそれなりにポジティブに考えられていたのに、理屈がつかないまま希死念慮に囚われるようになって、「死んでもいいからこんな治療全部やめたい」と考えはじめた。2週間くらいで抜け出せたので軽いほうだったのでしょうが、自分ではコントロールが効かないメンタルが壊れていく怖さを味わいました。うつってこんなにしんどいものなんだと。がんよりもうつのほうが怖いと思ったくらい、強烈な経験でした。

粕谷:そんなつらい毎日の中で、一番の支えになったのは?

上野:妻が、告知当時はまだ彼女だったんですが、私ががんだとわかってから病室に来て「結婚しよう」と言ってくれたんです。ありがたかったし、「こんな状況でも一緒に生きていく人ができたんだから、なおさらがんばらなければいけない」と思えました。何のためにこのつらい治療を受けるのか、しんどい思いをしてまで元気になりたいのか、自分に問う時期があったんですが、「家族と日常を生きる時間が欲しいから」というのが答えの一つだったんじゃないかな。育ててくれた親に対しても、何の恩返しもしないで死んでしまうのは申し訳ないと思いました。


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看護師さんに「粕谷さんは幸せですよ」と言われた理由