上野:言葉はすごく大事ですよね。がんで入院しているときは極限に近い精神状態ですから、かけられた言葉のニュアンスで、患者の気持ちは大きく変わります。医師や看護師が立ち去ったあと一人病室に残されたときに、その人の言葉が良くも悪くもジワーンと効いてくるんですよね。



■「再発の不安・これから」

粕谷:上野さんは最後の治療からもう18年ですよね。再発の不安とどう向き合ってきましたか?

上野:5年生存率って言うくらいで、5年経った時には「ああこれで少し力を抜いていいのかな」って。10年たつとさらに楽になって今は再発のことはほとんど考えなくて済むようになりました。2回再発してわかったことは、再発してしまうと「再発するかもしれない」っていう恐怖がないんですよ。だって再発しているんだから。そのぐらい再発は怖かった。寛解できて元の生活に戻ってもずっと再発の不安を抱えて生きてきたんだと、実感しました。ほとんどのがん患者がそうで、再発の不安を抱えて生きていると思います。再発したら次は…っていうのは、かなりリアルな不安感として迫ってきます。ただ、考え出したらきりがないし、口に出してもどうにもならないですよね。「再発が怖いんです」って言っても「そうか大変だね」とか「再発しないといいよね」で終わっちゃいますから。つらい気持ちをどこにどう持っていて昇華させればいいのか全然わかりませんでした。粕谷さんはメンタルを上手にコントロールなさっていますが、再発の不安はどうですか?

粕谷:私は再発したら終わりだと思っているんです。移植ももうできないだろうし、治療で使ったポナチニブは新薬なのでこれが効かなくて再発となると次の治療はやりようがなくなると思っています。再発したら絶望しかないですよね。

だから今は日ごろから、再発しないために自分はどうしたらいいのかをなるべく考えて実行するようにしています。たとえば外出の時に手袋をつけるのも、別に主治医から「手袋をしなさい」って言われているわけじゃない。何かの拍子に(雑菌の付いた)指を舐めてしまったりとか、そういうリスクを自ら取り除く努力は必要かなと。それが再発のリスクだけでなく不安の軽減にもつながると思っています。


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がんになって人生観は変わったか?